日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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ハンタウイルス肺症候群(Hantavirus Pulmonary Syndrome:HPS)

病原体

原因ウイルスは、ブニヤウイルス目(Bunyavirales)、ハンタウイルス科(Hantaviridae)オルソハンタウイルス属(Orthohantavirus)に分類される新世界ハンタウイルス(シンノンブレウイルス、アンデスウイルス、ラグナウイルスなど)

感染経路

自然宿主であるネズミの排泄物(糞、尿、唾液)の吸入により感染するが、汚染された物品との直接接触や飲食による感染や、感染したネズミに咬まれたり引っかかれたりした例や、ヒトからヒトへ感染した例もある。

流行地

南北アメリカ大陸(カナダ、米国、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ボリビア、ペルー)で確認されている。

発生頻度

米国では1993年から2021年時点で850名が報告されている。日本での発生例、輸入例の報告はない。(2024年11月5日現在)

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は9~33日、発熱、倦怠感、筋肉痛などのインフルエンザ様症状ではじまり、約半数で頭痛、めまい、嘔気、下痢、腹痛が出現する。発症4~10日後に肺水腫、胸水による呼吸困難が出現するが、心筋抑制による洞性徐脈、低血圧が出現することもある(ハンタ心肺症候群)。

予後

致死率は40%程度

感染対策

げっ歯類との接触を避ける。ワクチンはない。

法制度

感染症法で四類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

渡航歴、接触歴、臨床像などから本疾患を疑った場合には行政検査を依頼する。血液、肺組織(生検、剖検による新鮮・凍結組織)からの分離・同定による病原体の検出またはPCR法による病原体遺伝子の検出。血清による間接蛍光抗体法またはELISA法によるIgM抗体もしくはIgG抗体の検出が行われる。

診断した(疑った)場合の対応

感染症法に基づく届出を直ちに行う。HPSが疑われる患者で自施設での対応が困難な場合、可能な限り早期に集中治療管理ができる施設への搬送を進める。

治療(応急対応)

特異的治療法はなく、対症療法が基本である。患者管理としては、早期の集中治療を開始することが重要となり、特に肺浮腫、低酸素血症、低血圧に対する治療が重要である。

専門施設、相談先

最寄りの保健所、集中治療室のある二次救急医療機関や救命救急センターなどの三次救急医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 米国CDC:ハンタウイルス肺症候群;
    https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html
  2. 国立感染症研究所.ハンタウイルス肺症候群.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/hps/010/hps-info.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校 防衛医学研究センター 加來 浩器

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