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ブルセラ症(Brucellosis)
病原体
Brucella abortus、B.suis、B.melitensis、B.canis、B. neotomae、B.ovis、B.maris
感染経路
ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ等の感染動物の尿、糞、胎盤や羊水、乳などに病原体が含まれるため、未殺菌の乳製品や加熱不十分な肉の摂取、感染防護具不着用での動物出産介助などで感染し得る。授乳や性交などによるヒト-ヒト感染もあるが、極めてまれである。
流行地域
地中海地域、中国、インド、西アジア、およびアフリカとラテンアメリカ。特に近年中国での報告数が増加しており、本邦への旅行者も増加傾向のため注意が必要である。
発生頻度
本邦では年間0-10件だが、世界では毎年約50万人の新規患者が発生している。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は通常1-3週間だが数か月に及ぶこともある。症状は倦怠感、発熱、発汗、腰や背中の痛み、関節痛、悪寒等であり、他の熱性疾患と類似している。合併症は、骨・関節に最もよく見られ、腸腰筋膿瘍や化膿性椎体炎の報告がある。他にも、胃腸、肺、中枢神経系、心血管系など多岐にわたる症状を示すことがあり、中でも心内膜炎はブルセラ症による死亡原因の大半を占める。B. canis 感染では一般に症状は軽く、気がつかないケースも多い。特異的な検査所見はなく、炎症反応は上昇する。
予後
軽症例は自然治癒する。感染性心内膜炎や化膿性椎体炎合併例では腰痛等の後遺症が残ることがある。
感染対策
標準予防策で対応する。微生物検査室においては、安全キャビネットが普及するまでは実験室・検査室感染が最も多い細菌の一つであった。検査室内感染のリスクとしては、生菌を安全キャビネットの外で取り扱う、マスクや手袋等の個人防護具(PPE)の不装備、培養プレートのにおいをかぐ、血液培養ボトルや試験管の破損等がいわれているため注意が必要である。ブルセラ症を疑う症例では、検体を送る前に検査室にも一報を入れた方が良い。
法制度
感染症法では、4類感染症に定められており、患者、疑似症、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出る。
診断
動物と濃厚な接触歴があり、判然としない発熱や倦怠感が持続する場合にはブルセラ症を念頭に置いて診察するべきである。診断は細菌学的検査、血清学的検査、遺伝子の検出で行う。血液培養による診断が有効で、菌分離のためには最低21日間培養を行ったほうがよい。また、Brucella属とOchrobactrum属は近縁な菌であり、誤った菌名で報告されることがあるため注意が必要である。
診断した(疑った)場合の対応
まずは血液培養検査を行い、検査室もしくは検査センターへブルセラ症を疑っていることを伝え、培養期間の延長を依頼する。リンパ節生検や骨髄穿刺等で検体採取を行った場合も同様である。化膿性椎体炎や腸腰筋膿瘍合併例では感染症専門医のいる医療機関へ相談すべきである。
治療(応急対応)
ドキシサイクリン + ゲンタマイシンorストレプトマイシンorリファンピシン 6週間
専門施設に送るべき判断
化膿性椎体炎や腸腰筋膿瘍など、抗菌薬投与だけではなく外科的ドレナージが必要な症例や、バイタルサイン異常がみられる場合には速やかに紹介すべきである。
専門施設、相談先
検査相談:国立感染症研究所 獣医科学部
治療相談:感染症専門医のいる医療機関
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所. ブルセラ症 1999年4月~2012年3月 IASR 2012; 33(7): 183-5.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/brucella-m/brucella-iasrtpc/2342-tpc389-j.html - ブルセラ症の現状と対応. 今岡浩一. 感染症TODAY・ラジオNIKKEI/インターネットライブ 2019年1月9日
https://www.radionikkei.jp/podcast/kansenshotoday/kansenshotoday-190109.html - 厚生労働省. 動物由来感染症ハンドブック2019. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/all_low.pdf
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京医科大学 佐藤昭裕