日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease)

病原体

グラム陽性球菌である肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae

感染経路

主に飛沫感染である。1歳児の30~50%が鼻腔に保菌しており、保育施設に入園後1~2か月で保菌率は80%以上に上昇する。成人の保菌率は3~5%程度と低い。

流行地域

世界中で発生がある。約100種類の莢膜多糖体抗原に対する血清型があり、国や地域によって、流行血清型が異なる。

発生頻度

COVID-19の流行にともない、発生数は減少したが、その後は増加している。国立感染症研究所感染症発生動向調査によると、2023年の侵襲性肺炎球菌感染症は全国で1,959例であり、2024年は39週現在で1,816例である。

潜伏期間・主要症状・検査所見

気道感染症(肺炎、気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎など)に加え、侵襲性感染症(菌血症、髄膜炎など本来無菌的な部位に菌が侵入することで起こる疾患)を引き起こす。まれに、関節炎、蜂窩織炎、腹膜炎を起こすことがある。細菌特異的な症状はなく、各疾患の一般的な症状を呈する。

予後

ワクチン導入後における15歳以上の成人IPDの報告では、死亡率は16.5%(髄膜炎9.9%、非髄膜炎17.6)だった(Chang B et al. Sci Rep. 2022)。

感染対策

標準予防策に加えて、気管挿管や喀痰吸引時など飛沫暴露のリスクがある場合は飛沫予防策を行う。

法制度

侵襲性肺炎球菌感染症は感染症法上の五類全数疾患(全例7日以内に届出)、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は五類定点疾患(基幹定点医療機関のみ毎月報告)である。

診断

細菌培養検査もしくはPCR等の特異的核酸検査にて同定、診断行う。成人の場合は尿中肺炎球菌抗原検査も有用だが小児の場合、保菌による偽陽性があるため推奨されない。

診断した(疑った)場合の対応

疑った場合には感染巣の特定、入院の上で速やかな抗菌薬投与を行う。そのうえで基礎疾患、家族歴(集団保育の児との同居歴も)、ワクチン歴などを聴取する。ワクチン歴に関しては、2024年4月から15価結合型ワクチン(PCV15)と20価結合型ワクチン(PCV20)が定期接種ワクチンとなったため、接種の有無だけではなく、ワクチンの種類と接種回数を聴取する。後の菌株解析のため、採取検体と分離菌株は保存しておくことが望ましい。

治療(応急対応)

ペニシリン系抗菌薬が基本となるが、侵襲性肺炎球菌感染症を疑う場合はペニシリン耐性株も考慮した抗菌薬(バンコマイシン+第3世代セファロスポリン系薬)で治療を開始する。カルバペネム系薬は、近年メロペネム耐性株が増加しており、注意が必要である。無脾症患者などの侵襲性肺炎球菌感染症のハイリスク者に対しては、発熱を呈した点で抗菌薬治療を開始する。

専門施設に送るべき判断

治療に難渋した際には、紹介する。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関など

役立つサイト、資料

  1. Centers for Disease Control and Prevention. CDC Pneumococcal disease website with information for parents, public, and healthcare professionals.
    https://www.cdc.gov/pneumococcal/index.html
  2. 国立感染症研究所.肺炎球菌感染症 2022年現在.IASR Vol.44 p1-2:2023年1月号
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/44/515/article/010/index.html
  3. 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業.小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報
    https://ipd-information.com/

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

千葉大学大学院医学研究院小児病態学 竹下 健一

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