日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

33
腺ペスト・敗血症型ペスト(bubonic plague・Septic plague)

病原体

ペスト菌/Yersinia pestis

感染経路

①感染したげっ歯類に寄生するノミの咬傷からの感染。

②感染した動物の膿からの直接接触。

流行地域

ペストの自然感染病巣の世界的分布は、図に示すようにアフリカ、アジア、アメリカ大陸の山岳地帯であり、1990年代以降のほとんどのヒトの感染はアフリカで起こっている。近年の3大流行地はコンゴ民主共和国、マダガスカル、ペルーである。

ペストの自然感染病巣の世界分布

発生頻度

WHOの集計によるとペスト(腺ペスト、敗血症性ペストを含む)の患者は、2010年1月から2015年12月までの6年間で、3,248名が報告され、うち584名が死亡している。ただし2017年8月から11月にかけてはマダガスカルでアウトブレイクが発生し、総数2,348名のうち肺ペスト1,791名、腺ペスト389名、死亡者は202名となった。日本国内では1926年以降、ペストの発生はない。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は2-7日で、腺ペストと敗血症型ペスト(黒死病)とに分かれる。腺ペストでは、発熱、悪寒、倦怠感、嘔吐、筋肉痛、衰弱、リンパ節腫大・壊死、敗血症型ペストでは局所症状を伴わず、ショック、昏睡、手足の壊死、紫斑が出現する。

予後

腺ペスト・敗血症型ペストは、適切な抗菌薬が使用されない場合は肺ペストへ移行し、致死的となる。

感染対策

腺ペスト・敗血症型ペスト患者の診察時には標準予防策に接触予防策が必要である。患者が発生した地域では、ヒト-ヒト感染する肺ペストの続発が十分考えられので、できるだけ人込みをさけ、医療機関を利用する場合はサージカルマスクを装着する。流行地では感染した動物(ネズミ、犬、猫)との接触をさけ、ノミにかまれないように肌の露出を避け、忌避剤を使用する。

法制度

「ペスト」は感染症法で1類感染症、検疫法では隔離・停留処置を必要とする検疫感染症、学校保健安全法では学校感染症(第一種)に規定されている。

診断

血液、喀痰などからの病原体の分離・同定、蛍光抗体法によるエンベロープ抗原(Fraction1抗原)の検出、PCRによる病原体遺伝子の検査など

診断した(疑った)場合の対応

感染症法に基づいて、患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者、死亡疑い者を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。保健所は1類感染症として特定又は第一種感染症指定医療機関における入院勧告を行う。また病原体を保有しなくなるまでの就業制限(飲食物の製造、販売、多数の者に相対して接触する業務など)を行う。感染症死亡者の死体及び感染症死亡疑いの死体を検案した場合も直ちに届け出なければならない。

治療(応急対応)

抗菌薬による早期治療が重要である。テトラサイクリン系(ドキシサイクリン)、アミノグリコシド系(ストレプトマイシン、ゲンタマイシン)、キノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシンなど)を発症 8 - 24 時間以内に投与する。髄膜炎を合併しているケースでは、クロラムフェニコールを追加投与する

専門施設に送るべき判断

臨床所見、ペスト流行地への渡航歴、げっ歯類との接触、げっ歯類に寄生しているノミによる咬傷の有無などを参考にペストの疑似症を診断し、専門施設への搬送を判断する。

専門施設、相談先

最寄りの保健所

役立つサイト、資料

  1. World Health Organization. Plague key facts, 
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/plague
  2. World Health Organization, Plague around the world 2010-2015, WER, No.8, 2016,91,89-104, https://www.who.int/wer/2016/wer9108.pdf
  3. 厚生労働省:ペストについて
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179877.html
  4. 東京都:Ⅱ各論編 1一類感染症 (5)ペスト、東京都感染症マニュアル128- 9

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校防衛医学研究センター 加來浩器

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ