日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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ノロウイルス感染症(Norovirus infection)

病原体

カリシウイルス科に属するノロウイルス(Norovirus)による。ノロウイルスはGenogroupⅠとGenogroupⅡの2つの遺伝子群に分別され、それぞれ多数の遺伝子型が存在する。この為、生涯に何度も感染する可能性がある。

感染経路

感染者の糞便や嘔吐物中にウイルスが排出され、ヒト-ヒト感染する。感染力は非常に強く、ウイルス粒子が100未満でも感染が成立する。ウイルスは環境中でも長時間安定で、ウイルス粒子が付着した環境表面を触った手指からの経口感染が起こりうる。またほとんどは接触感染であるものの、吐物・排泄物が乾燥し、舞い上がったウイルス粒子のエアロゾルにより感染することもあるため、注意が必要である。ウイルスに汚染した水や食物(生牡蠣などの二枚貝や生野菜)からも感染し、食中毒の原因微生物としても知られている。食物が通常の食中毒予防の温度(75℃)より高い85℃以上で1分以上十分に加熱してあれば感染源とはならない。嘔吐があるとき、そして体調が回復してからの数日間は十分感染力があるため、注意が必要である。ウイルス排泄は消化管から4週間以上続くこともある。

流行地域

集団発生は通常、気温の低い冬に見られる。通常、本邦を含めた北半球では11月から4月にかけて、南半球では5月から9月にかけて流行する。赤道周辺では季節性は少ない。

発生頻度

世界における急性胃腸炎の5分の1を占める。世界中で、ノロウイルスは毎年平均して6億8,500万件の急性胃腸炎の総症例があり、うち2億人が5歳未満の小児患者であり、主に発展途上国の子供が50,000人死亡している。
本邦においては、2019年以前は毎年200件以上の食中毒が報告されていたが、2020年、2021年度、2022年は年間100件未満であった。2023年は163件と再び増加傾向を見せており、注意が必要である。一過性に減少していた原因としては他のウイルス性疾患と同じく、新型コロナウイルス感染症の社会的影響が考慮される。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は12~48時間程度である。主要症状は突然の嘔吐と水様性下痢、腹痛、嘔吐が特徴的である。発熱、頭痛などの全身症状を伴うこともある。また、小児では嘔吐を伴わない下痢症として発症することもある。また小児においては痙攣を惹起することもある。
症状は通常24~48時間程度持続する。高齢者や幼若乳児においてはさらに持続する可能性がある。免疫不全者においては慢性下痢症の原因ともなりうる。
血液検査上は脱水及び電解質異常、経口摂取不良に伴う低血糖に注意が必要である。

予後

通常、発症1~2日程度で改善し、後遺症もなく経過する。不顕性感染も起こりうる。一方で高齢者や5歳未満、特に1歳未満の小児、免疫不全患者では重症化する恐れがある。

感染対策

接触予防策を行う。ノロウイルスはエンベロープを持たないため、アルコールに抵抗性であり、アルコール消毒では手指衛生が不十分なため、流水と石鹸による手洗いが必要である。便や嘔吐物を清掃する場合は、マスク、手袋、ガウンを装着する。環境や器具の消毒には0.02%次亜塩素酸ナトリウムを用いる。吐物は乾燥しないうちに0.1%次亜塩素酸ナトリウム液を染み込ませたペーパータオルなどで拭き取り、汚染を広げないようにする。患者は症状回復後も1~4週間程度は糞便中にウイルスを排出するので、排便後の手洗いなどを十分指導する必要がある。

法制度

ノロウイルスは、感染症法では感染性胃腸炎の一部として五類感染症として分類され、定点把握疾患として全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から報告される。定点施設以外では通常の感染性感染症としての届出は不要だが、以下の場合は届け出る。

  1. 医師がノロウイルス食中毒と判断した場合は24時間以内に届け出る(食品衛生法)。
  2. 施設などでノロウイルス集団発生の場合は速やかに届け出る(厚生労働省通知)。

診断

診断は症状、病歴から臨床診断によりされることが多い。糞便を用いたイムノクロマト法によるノロウイルス抗原定性検査が実施可能だが、保険適応は3歳未満の小児、もしくは65歳以上の患者、悪性腫瘍患者や臓器移植患者といった免疫不全患者に限定されている。またこの検査が陰性でも本感染症を否定できない。近年では便検体を用いたmultiplex PCR検査も可能だが、保険収載されていない。ウイルス培養は困難で、ウイルスRNAを検出するRT-PCR法が最も確実な検査方法だが、食中毒の原因解明などを目的として行政機関や研究機関などでのみ実施可能である。

診断した(疑った)場合の対応

疑った段階で直ちに接触予防策を行い、感染対策に努める。また上記法制度上、保健所に届けるべき場合は届出を行う。

治療(応急対応)

特異的な抗ウイルス薬は存在しない。制吐剤はあまり有用ではなく、また止痢薬も合併症を起こしうるため、推奨されない。基本的には脱水に対して、軽症であれば経口補液、中等症以上であれば補液などの対症療法を行う。

専門施設に送るべき判断

感染対策ができれば一般医療機関で診療可能である。脱水からくる腎不全や嘔吐による誤嚥性肺炎などの臓器不全を伴う場合は高次医療機関への転送を検討する。

専門施設、相談先

専門施設はない。届出が必要な場合は保健所へ対応を相談する。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省 ノロウイルスに関するQ&A
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
  2. CDC.Norovirus
    https://www.cdc.gov/norovirus/index.html
  3. 国立感染症研究所.ノロウイルス感染症.IDWR2007年第9号
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/na/norovirus/010/norovirus-intro.html
  4. 東京都保健医療局.社会福祉施設等におけるノロウイルス対応標準マニュアル
    https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin//noro/manual.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立国際医療研究センター国際感染症センター 井上 健斗

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