04インフルエンザ(季節性)(seasonal influenza)
病原体
インフルエンザウイルスはA型、B型、C型、D型の4つの型に分類され、D型はヒトへの感染性は明らかではない。世界中で流行しているのは、A型のA(H1N1)、A(H3N2)と、B型のビクトリア系統、山形系統の4種類であったが、2020年3月以降、山形系統の株は検出されていない。
感染経路
咳やくしゃみなどの飛沫を介する飛沫感染と、インフルエンザウイルスが付着した手で鼻や口を触ることにより感染する接触感染である。
流行地域
温帯地域では、インフルエンザの流行期は北半球では10月~3月、南半球では4月~9月となる。亜熱帯および熱帯地域では、通年性に流行する。
発生頻度
世界では毎年約10億人がインフルエンザに罹患し、そのうち約300~500万人が重症化し、約29~65万人が死亡すると推定されている。日本国内のインフルエンザ累積推計患者数は推定約1000万人である。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は曝露後1~4日であり、症状出現の前日から発症後約5~7日まで感染力がある。発熱、倦怠感、頭痛、乾性咳嗽、筋肉痛、鼻炎、咽頭痛、嘔吐などの症状が突然現れることが特徴で、発疹を伴うことはまれである。高齢者や乳幼児では、発熱を伴わないこともある。また小児では成人よりも嘔気、嘔吐、下痢といった消化器症状を伴いやすい。通常1週間以内に軽快するが、咳や倦怠感が2週間以上持続することもある。
予後
健常人においては、通常は自然軽快する予後良好な疾患である。65歳以上の高齢者、2歳未満の小児、妊婦、肥満、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、慢性腎臓病、免疫不全など基礎疾患がある患者、老人ホームなどの長期介護療養施設に入居している患者では、原疾患の増悪や肺炎など合併症のリスクが高まり、入院や死亡の危険が増加する。
感染対策
一般には、流行期の手洗い、マスク着用、人混みを避けることなどを指導する。医療現場では、手指衛生、標準予防策に加え飛沫予防策を導入し、入院時は原則的に個室とする。エアロゾルの発生する手技を行う場合は空気予防策にも配慮する。感染防止を目的とした抗ウイルス薬の予防投与も必要に応じて検討する。
法制度
感染症法では五類に分類される。定点把握のために定点医療機関(全国約5,000カ所の内科・小児科医療機関)が週単位で、翌週の月曜日に届け出るが、それ以外の施設では感染症としての届出は不要である。入院症例については、基幹定点医療機関(全国約500カ所の病床数300以上の内科・外科医療機関)が週単位で、翌週の月曜日に届け出る。
診断
鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液を検査材料として、迅速診断キットによりウイルス抗原の検出ができた場合、インフルエンザと診断できる。
診断した(疑った)場合の対応
疑った段階で直ちに飛沫予防策を導入し、迅速診断キットで診断し、入院患者、重症例、インフルエンザによる合併症のリスクが高い患者に対しては次項により治療する。
治療(応急対応)
早期の抗ウイルス治療は、発熱などの有症状期間を短縮し、インフルエンザによる合併症のリスクを軽減する。現在わが国で日常使用可能な抗インフルエンザウイルス薬は、オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビルと、バロキサビル・マルボキシル(である。オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、バロキサビル・マルボキシルは予防投与に用いることができる。
専門施設に送るべき判断
一般医療機関で診療可能である。肺炎による呼吸不全などの臓器不全や基礎疾患の著明な増悪、脳症など重篤な合併症を認めた場合は高次医療機関への転送を検討する。
専門施設、相談先
特段専門施設はない。
役立つサイト、資料
- WHO. Fact sheets 3 October 2023 Influenza (Seasonal) https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/influenza-(seasonal)
- 厚生労働省.インフルエンザ総合ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/index.html
- Monto AS, et al. The End of B/Yamagata Influenza Transmission - Transitioning from Quadrivalent Vaccines. N Engl J Med. 2024 Apr 11; 390(14): 1256-1258.
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
大分大学医学部附属病院感染制御部 橋本 武博