日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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アメーバ肝膿瘍(amebic liver abscess)

病原体

赤痢アメーバと同じくEntamoeba histolycaがアメーバ肝膿瘍の病原体となる。

感染経路

経口感染または性的接触(口腔・肛門性交)により腸管から侵入したE. histolycaが経門脈的に肝臓に移行し、肝膿瘍を形成する。

流行地域

発展途上国を中心に世界中で流行しており、日本では、流行地域への渡航・滞在による感染(特に6か月以上の滞在でリスクが高い)、男性同性愛者間、知的障害者施設入所者での感染が多い。

発生頻度

日本での発症数は赤痢アメーバ症全体で年間800件程度の発症が報告されているが、そのうち2007-2016年の調査では12%が腸管外アメーバ症と報告されており、大半がアメーバ肝膿瘍である。以前男性でアメーバ肝膿瘍の発症が多いと報告されていたが、男女ともアメーバ肝膿瘍への進展の頻度に変わりないとの報告もある。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は通常数か月~数年であり、赤痢アメーバよりも長く、以前の海外渡航歴や性交渉歴の問診も重要な情報となる。主要症状は、発熱、右季肋部痛であり、肝腫大、肝叩打痛を認め、咳嗽や胸痛を伴う場合もある。下痢や粘血便など消化器症状は10~35%程度と少ない。初期には熱源不明の発熱のみを呈し、感冒やインフルエンザと診断される例も多いため、注意が必要である。血液検査で、左方移動を伴った白血球増多を認めるが、好酸球は上昇しない。また、貧血、AST、ALT、ALPの上昇を認めることが多い。

予後

治療開始から解熱までは通常3-5日間かかるが、一般に治療反応性はよく、予後は良好である。ただし膿瘍が破裂した場合は致死的なこともある。また、肝膿瘍以外の腸管外アメーバ症として、脳膿瘍、肺膿瘍、心外膜炎、皮下膿瘍に注意する必要がある。

感染対策

予防接種はない。赤痢アメーバと同じく、特に衛生環境の整っていない発展途上国では、生水、生肉、生野菜からの感染に注意し、経口感染を防ぐために手指衛生を行うようにする。また、国内感染例の多くが性的接触のため、口腔・肛門性交を避けるなど性感染症対策も予防の一貫となる。医療機関で赤痢アメーバ症患者を診療する際には、標準予防策に加えて接触予防策で対応し、手袋、エプロンを装着し、手指衛生を励行することが重要である。

法制度

「アメーバ肝膿瘍」は感染症法5類感染症に定められている「アメーバ赤痢」の腸管外アメーバ属に該当するために、確定患者や死亡者を診断した医師は診断後7日以内に最寄りの保健所へ届け出ることが義務付けられている。

診断

画像検査として、腹部超音波、腹部CTで肝内占拠性病変を認め、通常は単発、単胞性で、境界鮮明、内部が均一であり、80%が右葉に発生する。穿刺ドレナージは通常不要であるが、膿瘍穿刺で得られた膿汁は無臭でアンチョビペースト状であるのが典型的である。膿汁からの原虫検出率は50%前後であり高くはない。糞便検査での検出感度は10-40%程度と、赤痢アメーバと比べると低い。また、E. histolycaに対する血清抗体検査は感度が95%と高く有用であったが、2017年末の試薬製造中止に伴い、2019年3月時点で検査不可能となっている。E. histolycaの抗原検出法やPCR法による検出は一部の施設に依頼可能である。その他、血液培養で細菌性肝膿瘍との鑑別を付けることも肝要である。

診断した(疑った)場合の対応

アメーバ肝膿瘍に対して治療を開始するとともに、性的接触による感染が疑われる場合は、HIVなど他のSTDについても検査する。

治療(応急対応)

メトロニダゾール内服が第一選択である。内服もしくは経口摂取が不能の場合は静注で治療を開始する。メトロニダゾール治療後に、パロモマイシンによる根治療法が推奨されている。膿瘍に対する穿刺ドレナージは通常は適応とならないが、5~7日間の治療で改善なく症状持続する場合、また、腫瘍径が5-10cm以上で破裂の危険がある場合、もしくは左葉にあり心膜腔へ穿破する危険性がある場合に考慮する。

専門施設に送るべき判断

アメーバ肝膿瘍の破裂の危険がある場合、またメトロニダゾールへの治療反応性が悪い場合は、専門施設に速やかに送る。

専門施設、相談先

日本寄生虫学会では寄生虫病に関する診断・治療のコンサルテーションを受け付けている(医療従事者限定、http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/academic/consultation/)。

役立つサイト、資料

  1. 熱帯病治療薬研究班. https://www.nettai.org/資料集/
  2. 国立感染症研究所. アメーバ赤痢とは. IDWR 2002年第30号. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/315-amoeba-intro.html
  3. 国立感染症研究所. アメーバ赤痢 2007年第1週~2016年第43週. IASR Vol.37 p239-240: 2016年12月号.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/entamoeba-histolytica-m/entamoeba-histolytica-iasrtpc/6941-442t.html
  4. CDC. Amebiasis. https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/amebiasis

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都福祉保健局 松平 慶

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