日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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黄熱(yellow fever)

病原体

原因ウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属の黄熱ウイルス(yellow fever virus、YFV)。

感染経路

YFVは、都市部ではヒトとヤブカの間(都市型黄熱)、ヒトやサルとヤブカの間[中間(サバンナ)型]、森林部ではサルとヤブカの間(森林型黄熱)で維持されている。ヒトはYFVを有する蚊(ネッタイシマカ等のヤブカ)に咬まれて感染する。理論的には針刺しや体液の直接的接触で急性期患者から他のヒトへの感染はあり得ると言えるが、そのような事例の報告はない。

流行地域

アフリカおよび中南米の熱帯・亜熱帯地域で流行している。アジアでは、YFVに感受性のあるネッタイシマカなどのヤブカが生息しているにもかかわらず、黄熱は流行していない。

発生頻度

周期的な患者数の増減が認められるものの、依然として黄熱流行が確認されている。2015年12月から2016年6月にかけて、アンゴラとコンゴ民主共和国で黄熱の大規模流行が発生した。アンゴラとコンゴ民主共和国でそれぞれ疑い患者を含めて約4,347人と約2,987人(死者数はそれぞれ377人と121人)の患者が発生した。日本から流行地に赴く場合、黄熱ワクチン接種が義務づけられていることから、日本での黄熱輸入感染事例の報告はない。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は通常3~6日とされている。発症初期には、発熱、頭痛、紅潮、結膜充血、筋肉痛等の急性感染症状が出現する。末梢血液検査では、白血球減少や血小板減少が認められることが多い。理学所見は、圧痛を伴う肝腫大、上腹部圧痛、苺様舌、比較的徐脈が認められることがある。重症化すると黄疸、疲労感、嘔吐、上腹部痛、乏尿症、肝障害、腎不全、出血、心機能障害、中枢神経障害が出現する。

予後

発症者の約15%が重症化すると考えられており、重症化すれば致命率は30-60%ととても高い。重症黄熱患者の予後は不良である。

感染対策

基本的にヒトからヒトに感染することはないので、患者の診療時は標準予防策で対応する。渡航先の国が渡航に際し事前に黄熱ワクチン接種を義務づけている場合には、事前に黄熱ワクチン接種を受け、それを証明するイエローカードの携帯が求められている。流行地では蚊に刺されないようにする。

法制度

黄熱は感染症法において四類感染症に指定されている。黄熱と診断された患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者を診た場合には、直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

診断にはウイルス学的な検査が欠かせない。流行地への渡航歴の有無、黄熱ワクチン接種歴を確認する。黄熱ワクチン接種既接種者の場合、黄熱である可能性は除外可能である。通常、YFVに対するIgM抗体検出、急性期および回復期におけるYFVに対するIgG抗体価の有意な上昇を確認する血清学的検査と血液等からYFV遺伝子を検出する検査が実施される。黄熱流行地ではデング熱、西ナイルウイルス感染症、ジカウイルス病の原因となるフラビウイルスによる感染症が流行している。デングウイルス感染症では重症例は黄熱と区別がつかない場合がある。YFVを含め、フラビウイルス間では抗原性に交差性が認められることから、必要に応じて血清学的診断には中和抗体法を用いる。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所や渡航外来のある医療機関、国立感染症研究所に相談する。

治療(応急対応)

特異的な治療法はない。

専門施設に送るべき判断

重症化した場合の予後は不良である。黄疸、出血症状、意識障害等の症状が認められたり、播種性血管内凝固症候群や血球貪食症候群等の病態が示唆されたりする場合には、感染症専門医のいる医療機関に搬送し、治療を行うことが推奨される。

専門施設、相談先

国立感染症研究所や渡航者外来のある医療機関、感染症専門医のいる医療機関に相談する。

14. 役立つサイト、資料

  1. WHO. Situation report. Yellow fever 28 October 2016.
    https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/250661/yellowfeversitrep28Oct16-eng.pdf;jsessionid=0D1F16821168CA5E61DD638A98F6EC21?sequence=1
  2. 厚生労働省検疫所の関連サイト:黄熱について
    https://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

札幌市保健所・国立感染症研究所 西條 政幸

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