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感染性心内膜炎(Infectious endocarditis)
定義
感染性心内膜炎は弁を含む心内膜の感染症であり、常にその可能性を鑑別診断に挙げることが重要であり、不明熱の重要な鑑別診断である。
病原体
グラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌、腸球菌、α溶連菌)が圧倒的に多く、グラム陰性桿菌は非常に稀。それ以外にRickettsia(Q熱)、真菌、ウィルスによる心内膜炎もある。
感染経路
歯科領域(抜歯処置や慢性歯肉炎)、軟部組織、血管、消化器が考えられているが、侵入門戸が判明しないことも多い。
発生頻度
一般人口における発症率は3-7/10万人/年とされる。
潜伏期間・主要症状・検査所見
菌血症の原因発生と症状の出現までは2週間程度とされる。
症状
①非特異的症状
全身倦怠感、易疲労感、持続する微熱、寝汗、体重減少といった全身症状。発熱は最も頻度の高い症状のひとつである。また、関節痛・筋肉痛・腰痛もよくみられる。
②塞栓症状
脳血管障害、髄膜炎、心筋梗塞、腹痛(腹部内臓動脈の塞栓症状)、血尿(腎梗塞)、四肢の急性動脈閉塞が重要。ベッドサイドで診察できるものとして、眼球結膜・眼底(Roth斑)・頬粘膜・口蓋の点状出血、爪下点状出血、手掌・足底の斑点(Janeway lesion)がある。
③弁膜障害、心筋障害、心不全
逆流性の心雑音が重要で、弁破壊により大動脈弁閉鎖不全・僧帽弁閉鎖不全が進行すると非代償性の心不全症状(呼吸困難・咳嗽・浮腫)を呈する。
検査所見
①血液培養
最も診断に有用な検査である。来院後なるべく早く2-3セット採取する。
②心エコー
経胸壁あるいは経食道心エコーで疣贅を見つける。
予後
無治療の場合、発症から死亡までの期間は急性心内膜炎で1.5か月、亜急性心内膜炎で3か月といわれている
感染対策
標準予防策を行う。
感染性心内膜炎発症時に、特に死亡などの重篤な結果を招く可能性の高い一群を高度リスク群と捉え、同群に対して歯科口腔外科手技に際する予防的抗菌薬投与が推奨されている。詳細は下記ガイドライン参照。
法制度
感染性心内膜炎自体での届出は不要であるが、劇症型溶連菌感染症(5類感染症)の届出基準を満たす場合は7日以内に届け出なければならない。
診断
修正Duke心内膜炎診断基準が感度90%、特異度95%で最も頻用されている。
診断した(疑った)場合の対応
モニター装着の上、呼吸循環監視を開始する。晶質液(リンゲル液など)による輸液を開始し、ショックならば急速投与する。可能ならば、採血(末梢血、生化学、凝固、血液ガス分析)、血液培養2-3セットを採取する。
治療(応急対応)
高次医療機関へ転送する場合は輸液を行うのみで十分である。
専門施設に送るべき判断
感染性心内膜炎と診断した(疑った)場合は、全例三次医療機関(救命救急センター)あるいは循環器内科/心臓血管外科専門病院へ転送する。
専門施設、相談先
三次医療機関(救命救急センター)あるいは循環器内科/心臓血管外科専門病院
役立つサイト、資料:
- 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版). 一般社団法人日本循環器学会 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
熊本医療センター救命救急センター 渋沢崇行