日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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新規ダニ媒介性ウイルス感染症(オズウイルス感染症、エゾウイルス感染症)
Novel tick-borne viral infections(Oz virus infection, Yezo virus infection)

病原体

オズウイルス(Oz virus:OZV)は、オルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に分類され、2013年に愛媛県で採取されたタカサゴキララマダニから、2018年に初めて分離されたウイルスである。
エゾウイルス(Yezo virus, YEZV)は、ブニヤウイルス目ナイロウイルス科オルソナイロウイルス属に分類されるウイルスである。

感染経路

OZVは、ヒトを刺咬するマダニで検出されており、茨城県からの症例報告でも、飽血に近い状態のマダニ咬着が確認されたことから、感染マダニの刺咬により感染する可能性が考えられるが、確たる証拠は得られていない。
YEZVは、マダニにより媒介され、ヒトは感染マダニの刺咬により感染する。

流行地域

OZVを媒介すると考えられているタカサゴキララマダニは主に関東以西の全国に分布している。OZV感染症の報告は茨城県からの1例のみだが、山口県の狩猟者や千葉県、岐阜県、三重県、和歌山県、山口県、大分県などの野生動物の血清から抗体が検出されており、日本の広い地域にOZVが分布している可能性がある。OZVの報告は、現時点では本邦以外からはない。
本邦のYEZV症例で、マダニ刺咬を受けたと考えられる地域は北海道全域に点在している。本邦以外では、2018年に中国東北部でシュルツェマダニ咬傷歴がある患者から報告されている。

発生頻度

OZV感染症は、2023年に報告された1例のみである。
YEZV感染症は、2013~2023年までにマダニ媒介感染症が疑われ、北海道衛生研究所に検査依頼があった572検体から合計18例が報告されている。(以上が本邦の全報告数である。)

潜伏期間・主要症状・検査所見

ヒトにおけるOZV感染症の報告は1例のみ(14.役立つサイト、資料に示した2023年のIASR速報)で、詳細は不明である。当該症例は、39度の発熱を主訴とし、倦怠感や消化器症状を伴い、血液検査では白血球減少と血小板減少に加え、肝逸脱酵素(AST/ALT)やフェリチンの上昇を認めた。
YEZVの推定潜伏期間は4~9日(平均6日)と考えられており、北海道からの報告では、5~7月のマダニ(主にシュルツェマダニ)咬傷後に、発熱や筋肉痛、頭痛などの非特異的な症状で発症する。4割程度に神経症状を合併するとの報告もある。血液検査では発熱・白血球減少(異型リンパ球増多)と血小板減少に加え、肝逸脱酵素(AST/ALT)やフェリチンの上昇が認められることが多い。

予後

ヒトにおけるOZV感染症報告例は1例(死亡症例)のみであり、予後は不明である。対して、これまでのところ、YEZV感染症による死者は報告されていない。

感染対策

他のダニ媒介感染症同様に、ダニに咬まれないように注意する。両疾患ともヒト-ヒト感染の報告はないが、ヒト-ヒト感染を起こしうるかは不明であるため、現時点では疑い例では標準予防策の徹底を行い、ウイルス量が高いと予想される重症患者の診療ケアにおいては、接触および飛沫予防策も実施することが望ましい。

法制度

ともに、感染症法に定められた届出対象疾患ではない。

診断

血液等からのウイルスの分離・同定及びRT-PCR法による病原体診断やペア血清による抗体検査がある。

診断した(疑った)場合の対応

OZV感染症やYEZV感染症を疑い、検査が必要な場合は最寄りの保健所や国立感染症研究所に相談する。北海道内でYEZV感染症の検査を依頼する場合は、ダニ媒介感染症の行政検査に併せて、保健所を通して北海道立衛生研究所に検査を相談する。

治療(応急対応)

現時点では特異的な治療法はなく、治療は対症療法が基本となる。

専門施設に送るべき判断

症例数が乏しく明確な基準はないが、重症化が進み全身管理を要する場合は高度医療機関への転送を考慮する。

専門施設、相談先

検査方法については国立感染症研究所、診療については不明な点がある場合は感染症専門医のいる専門病院に相談するとよい。

役立つサイト、資料

オズウイルス

  1. 国立感染症研究所.初めて診断されたオズウイルス感染症患者 IASR Vol.44 p109-111:2023年7月号
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/44/521/article/010/index.html
  2. 国立感染症研究所.オズウイルス感染症.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/ozv/010/ozv.html
  3. 国立感染症研究所.オズウイルス感染症に関するQ&A
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/ozv/020/ozvqa.html
  4. Ejiri H, et al. Characterization of a novel thogotovirus isolated from Amblyomma testudinarium ticks in Ehime, Japan: A significant phylogenetic relationship to Bourbon virus. Virus Research. 2018; 249: 57-65.
  5. Tran NTB, et al. Zoonotic Infection with OZ virus, a Novel Thogotovirus. Emerging Infectious Diseases.2022; 2: 436-439.

エゾウイルス

  1. 国立感染症研究所.北海道における新規オルソナイロウイルス(エゾウイルス:Yezo virus)によるマダニ媒介性急性発熱性疾患の発見 IASR Vol.41 p11-13:2020年1月号
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/route/arthlopod/9354-479d01.html
  2. Kodama F, et al. A novel nairovirus associated with acute febrile illness in Hokkaido, Japan. Nature Communications 2021; 12(1): 5539.
  3. Lv X, et al. Yezo Virus Infection in Tick-Bitten Patient and Ticks, Northeastern China. Emerging Infectious Diseases. 2023; 4: 797–800.

(利益相反自己申告:
 講演料:ファイザー株式会社)

筑波大学医学医療系臨床医学域感染症内科学、筑波メディカルセンター病院感染症内科 寺田 教彦

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