日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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鼻疽(Glanders)

病原体

Burkholderia mallei、グラム陰性、好気性、非運動性の桿菌

感染経路

傷があるなど健常ではない皮膚、あるいは粘膜への直接曝露、飛沫やエアロゾルの吸入、汚染された食肉の摂取。ヒト-ヒト感染は稀とされるが、診療、剖検、そして家庭内での濃厚接触による報告がある。

流行地域

東アジア、中南米、北アフリカ、中東にて散発的に発生

発生頻度

上述のendemic countriesにて感染動物との濃厚接触によって散発的に発生、少なくとも西ヨーロッパ、カナダ、米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドなどでは排除されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は急性型では1-14日、慢性型では最長で12週間とされる。局所感染では通常曝露後1-5日。
感染ルートにより様々な病型(局所皮膚粘膜、肺、播種性、敗血症性、そして慢性型)を取り得る。
局所感染では侵入部位の膿疱疹、痛み、発赤腫脹から水疱、膿瘍、潰瘍化、排膿する。眼や結膜では流涙と羞明、鼻では侵入部位の発赤腫脹、大量の分泌物から鼻中隔や骨、所属リンパ節へ波及する。局所感染は播種により、肺、敗血症性、肝、脾、肺等多臓器における多発性膿瘍を起こす。鼻感染の下気道への進展、あるいはエアロゾルの直接吸入により気管支炎、肺炎、肺膿瘍となる。非特異的な症状として、発熱、全身倦怠、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、胸痛などを伴う。患者の少なくとも半数は初期の症状が数日から2か月間続いた後、一旦軽快傾向となるため、誤判断に繋がることがある。通常はその後感染部位特異的な症状となる。

予後

人の症例数が少ないため正確ではないが、呼吸感染や播種性感染では致死率は治療しなければ90-95%、治療しても40-50%、皮膚局所感染では20%、播種すれば前述と同様の予後となる。慢性型では、治療が行われても致死率50%。

感染対策

医療機関では標準予防策に加え、接触予防策、空気予防策をとる。B. malleiは一般的な消毒薬(1% sodium hypochlorite, 70% ethanol, iodine, benzalkonium chlorideなど)に感受性があり、55℃ 10分、UVにても不活化される。曝露後化学予防は、サルファメトキサゾール・トリメトプリムが第一選択、使えない場合にはクラブラン酸・アモキシシリン。

法制度

「鼻疽」は感染症法に基づく4類感染症の対象疾患であり、確定患者、無症状病原体保有者、死亡例、また疑われる死亡例については、直ちに届け出る。B.malleiは感染症法上3種病原体で、扱うにはBSL-3が要求され所持する場合には届出が必要である。

診断

膿性分泌物からの培養やPCRによる病原体の検出。ゴールドスタンダードは培養法であり、血清診断は研究段階である。

診断した(疑った)場合の対応

疑った場合には、接触予防策と空気予防策をとり、直ちに管轄保健所に報告、地方衛生研究所を通して、国立感染症研究所等にて確定診断を行う。分離培養には特殊な培地は必要ないが、実験室感染のリスクのために、BSL-3施設でのみ行う。

治療(応急対応)

Initial intensive-phaseでは、セフタジジム、より重症や増悪例ではメロペネム、サルファメトキサゾール・トリメトプリム併用を考慮する。Oral eradication phaseでは、感受性を踏まえた上で、スルファメトキサゾール・トリメトプリムが第一選択、使えない場合にはクラブラン酸・アモキシシリン。イミペナムとドキシサイクリンで劇的に改善し、その後アジスロマイシンとドキシサイクリンにて完治に至った例が報告されている。

専門施設に送るべき判断

診断に難渋する多発性膿瘍症例で、接触歴などから本疾患、特にアウトブレイクが疑われる際。

専門施設、相談先

地域の感染症指定医療機関、国立感染症研究所。

役立つサイト、資料

  1. CDC. Glanders. https://www.cdc.gov/glanders/index.html
  2. CDC.  Workshop on Treatment of and Prophylaxis for Burkholderia pseudomallei and B. mallei Infections.EID 18(12) 2012.
  3. Srinivasan A, Kraus CN, et al. Glanders in a Military Research Microbiologist. N Engl J Med 2001; 345:256-8.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構三重病院 臨床研究部 谷口清州

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