日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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敗血症(Sepsis)

定義

感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態。

病原体

病原体は黄色ブドウ球菌を代表とするグラム陽性球菌(GPC)と大腸菌を代表とするグラム陰性桿菌(GNR)が大半を占める。

感染経路

病原微生物により感染侵入門戸は異なるが、頻度の高い感染巣(呼吸器、尿路、腹腔内、皮膚軟部組織)と見逃しやすい感染巣(前立腺、胆管、関節、感染性心内膜炎)がある。

流行地域

全世界で発症しうるが、サハラ以南のアフリカやオセアニア、南アジア、東アジア、東南アジアで発症率や死亡率が高い。

発生頻度

2017年のデータでは、世界中で4,890万人が敗血症となり、1,100万人が死亡している。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は病原微生物により様々である。
臓器障害の表現型として以下の症状が重要。
①呼吸不全:呼吸困難・頻呼吸
②凝固能異常:出血傾向・皮膚の紫斑
③肝機能異常:黄疸
④循環不全:頻脈・血圧低下・皮膚の異常(温かいこともあれば冷たいこともある)
⑤中枢神経異常:意識の変容
⑥腎機能障害:尿量の低下あるいは無尿
検査所見としては、上記臓器不全を示唆する検査所見(P/F比の低下、血小板の減少、ビリルビンの増加、クレアチニンの増加)とともに、炎症反応、血清乳酸値が重要である。

予後

2017年のデータでは、院内死亡率は18.3%と報告されているが、敗血症の予後は病原微生物、患者の背景因子、治療介入の質により様々である。

感染対策

①予防:ワクチン接種(インフルエンザウイルスや肺炎球菌など)および衛生管理の徹底(手指衛生・マスクの着用)
②早期認知と早期治療介入

法制度

病原微生物に応じて、感染症法に基づき、規定された届出を行う。

診断

非ICU患者で感染症を疑った場合、まずqSOFA(quick SOFA)基準(呼吸数≧22回/分、意識変容あり、収縮期血圧≦100mmHg)でスクリーニングを行う。2項目以上該当するようであれば、敗血症の可能性があるため、続いてSOFAスコアで臓器障害の有無を評価し、2点以上の急上昇を認めれば敗血症と確定診断する。敗血症と診断した後、十分な輸液を行ったにも関わらず平均血圧65mmHgを維持するために血管作動薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)以上のものを敗血症性ショックseptic shockと診断する。

診断した(疑った)場合の対応

モニター装着の上、呼吸循環監視を開始する。晶質液(リンゲル液など)による十分な輸液(30mL/kg以上を目安とする)を開始する。可能ならば、採血(末梢血、生化学、凝固、血液ガス分析)を行い、血液培養2セット、必要に応じて各種検体(喀痰、尿、髄液など)を採取し培養に提出する。

治療(応急対応)

十分な輸液とともに血液培養採取後に広域抗菌薬投与(empiric therapy)を速やかに行うことが望ましい。

専門施設に送るべき判断

敗血症と診断した(疑った)場合は、全例三次医療機関(救命救急センター)へ転送する。

専門施設、相談先

三次医療機関(救命救急センター)

役立つサイト、資料

  1. 日本版敗血症診療ガイドライン2020.日本集中治療医学会雑誌Vol.28 Supplement 25,Feb 2021
  2. 敗血症情報サイト.
    http://敗血症.com/index.html
  3. Global Sepsis Alliance.
    https://www.global-sepsis-alliance.org/
  4. World Sepsis Day.
    https://www.worldsepsisday.org/?MET=HOME&vLANGUAGE=EN

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構熊本医療センター救命救急科 櫻井 聖大

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