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ロタウイルス感染症(Rotavirus infection)
病原体
ロタウイルス
感染経路
主に接触感染(経口感染)である。感染力は極めて高く、ウイルス粒子10~100個で感染が成立する。またウイルスが含まれる嘔吐物や下痢が乾燥することで、エアロゾル化してウイルスが空間に浮遊するため、飛沫でも感染が拡がる。
流行地域
世界中でみられる。
発生頻度
極めて一般的なウイルス性疾患であり、冬から春にかけて流行する。日本の年間患者数は約80万人、入院者数は乳幼児を中心に約7~8万人におよぶが、ワクチンで予防可能である。重症ロタウイルス下痢症に対する予防効果は、先進国においては約90%、途上国では約50%、その中間の国では約70%と推定されている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は1~4日間であり、嘔吐、下痢、発熱などが出現する。まれに熱性けいれん、脳炎・脳症などを発症することもある。多くは自然軽快するが、脱水症が重症化すれば、電解質異常や低血糖、アシドーシスなどを呈する。概ね5歳までにほとんどの小児がロタウイルスに感染するが、一度の感染では十分な防御免疫ができず、複数回罹患することもあるが、免疫により症状は軽減していくことが多い。
予後
ロタウイルス感染症により世界では5歳未満の小児が約50万人死亡しており、その80%以上が途上国で発生している。粗悪な衛生環境、医療過疎のため、脱水症が悪化しても、輸液治療が受けられずに死亡することが多い。日本では治療を受ければ脱水症が致命的になることはほとんどないが、感染者数が非常に多いため、社会的インパクトは大きい。
感染対策
標準予防策の遵守に加えて、接触予防策および飛沫予防策が必要である。患者ケア時や吐物を処理する際は手袋、ガウンの着用に加え、マスクの着用も必要である。エンベロープを有さないウイルスのため、アルコールが効きにくく、手指衛生の際は流水と石鹸による手洗いが必要である。環境表面の消毒は次亜塩素酸ナトリウムを使用する。
法制度
「感染性胃腸炎」は定点報告対象(五類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出る。「感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスであるものに限る。)」は定点報告対象(五類感染症)であり、指定届出機関(全国約500カ所の基幹定点医療機関)は週毎に保健所に届け出る。
診断
臨床的に他のウイルス性胃腸炎と区別はできない。便中のウイルスを迅速抗原検査(イムノクロマト法)で診断することが多い。遺伝子診断法に対するイムノクロマト法の感度は95%で高く、また市販されているキット同士の比較でも大きな差は認められていない。アウトブレイク時など、ウイルスの型を特定する必要があるときは遺伝子検査(PCR)を用いることもある。
診断した(疑った)場合の対応
接触感染によりヒトからヒトに伝播するため、患者に接触するときは上記の接触予防策、飛沫予防策を実施する。入院が必要な際は、原則として個室隔離が望ましい。
治療(応急対応)
ロタウイルスに対する抗ウイルス薬による特異的治療はない。脱水や電解質異常に対して経口補水液、輸液療法を行う。乳児に対しては経口ワクチンがあり、世界130か国以上で承認されている。日本では2020年10月に定期接種になった。その後ロタウイルス感染症は激減したが、COVID-19対策で実施された様々な感染予防策による影響が推測され、今後の疫学が注目される。
役立つサイト、資料
- CDC Rotavirus https://www.cdc.gov/rotavirus/index.html
- 国立感染症研究所.ロタウイルス感染性胃腸炎.
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ra/rotavirus/010/rota-intro.html - 横浜市衛生研究所 ロタウイルスによる感染性胃腸炎について
- Crawford SE, et al. Rotavirus infection. Nat Rev Dis Primers 2017; 3: 17083
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
藤沢市民病院臨床検査科 清水 博之