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コクシジオイデス症(coccidioidomycosis)
病原体
Coccidioides immitisあるいはC. posadasii
感染経路
土壌に生息する真菌であるコクシジオイデスの吸入による経気道感染である。ヒトから排泄された喀痰中の胞子が容易に空中を漂うことから注意が必要である。
流行地域
アメリカ南西部およびワシントン州中南部、中南米(近年流行地域の拡大が指摘されている)
発生頻度
年間5例前後
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は1~4週。感染者のおよそ半数に症状が出現する。急性肺コクシジオイデス症は非特異的な感冒様症状で大多数は自然治癒する。胸部X線にて両側の浸潤影を呈する。時に胸水貯留がみられる。四肢の結節性紅斑が出現することもある。慢性肺コクシジオイデス症は感染者の10%程度が進展する病型で、我が国の診断例で最も多くみられる。多くは無症状で、胸部画像上肺野に結節影、空洞影を認める(図1)。播種性コクシジオイデス症は感染者の1%程度にみられる。骨・関節・皮膚軟部組織・中枢神経系等肺外病変を呈する。
予後
病型によって異なる。急性肺コクシジオイデス症、慢性肺コクシジオイデス症は一般に予後良好である。播種型(とくに中枢神経系播種)は予後不良である。
感染対策
基本的にヒト-ヒト感染は起こらないとされているが、本菌を含んだ喀痰やドレーン排液等の臨床検体を数日放置しておくと感染力の強い形態(分節型分生子と呼ばれる)を形成し極めて危険であるため、患者療養環境の整備に留意する必要がある。流行地域では特段の感染対策を講じていないが、我が国では個室管理(陰圧管理は不要)が望ましいと考えられる。
法制度
感染症法四類感染症(全数把握)
診断
症状や画像所見等には特異的なものはないため、流行地域への旅行歴、滞在・居住歴が診断のきっかけになる。数年~数十年後の発症・再燃例もあるため詳細な聴き取りが必要である。血清学的診断として、我が国では抗体検査(EIA)が可能である(国立感染症研究所真菌部または千葉大学真菌医学研究センターで施行可能)。塗抹細胞診検査、病理組織学的検査は有用で、特徴的な菌形態を認める(球状体、図2)。
診断した(疑った)場合の対応
本症の原因菌は感染力が強く、国立感染症研究所ではBSL-3扱いとなっている。一般の医療機関においては検査室内感染を引き起こす危険性があるため培養検査は行うべきではない。病歴聴取、画像検査等で本症を疑った場合は検体を培養する前に以下の専門機関に相談する。万が一培養開始後に本症疑いであることが判明した場合は速やかに検査室に連絡し、培養中止を指示する。
治療(応急対応)
我が国で多く見られる慢性肺コクシジオイデス症の場合の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬(とくにフルコナゾール)である。イトラコナゾール、ポサコナゾールも用いられる。播種性コクシジオイデス症の場合はポリエン系抗真菌薬(アムホテリシンBリポソーム製剤)または高用量のフルコナゾールを用いる。
専門施設に送るべき判断
播種性コクシジオイデス症の場合は高次医療機関への転院が望ましい。
専門施設、相談先
国立感染症研究所真菌部、千葉大学真菌医学研究センター
役立つサイト、資料
- CDC. Valley Fever(Coccidioidomycosis)
- 日本医真菌学会編 希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 第1版 春恒社 2024
- Thompson GR 3rd, et al. Global guideline for the diagnosis and management of the endemic mycoses: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the International Society for Human and Animal Mycology. Lancet Infect Dis 2021, 21: e364.
- 厚生労働省研究班 バイオテロ対策ホームページ バイオテロ関連疾患の一覧13.コクシジオイデス症
https://www.niph.go.jp/h-crisis/bt/disease/13summary/13detail/
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
千葉大学真菌医学研究センター 渡邉 哲
図1 慢性肺コクシジオイデス症のCT像。
右肺に結節影を認める。
図2 コクシジオイデス球状体(PAS染色)。