日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

07
ウエストナイルウイルス病(West Nile virus disease)

■病原体

フラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるウエストナイルウイルス(West Nile virus; WNV)。

■感染経路

蚊媒介性感染症のひとつである。トリと蚊の間の感染環(life cycle)でウイルスは維持され、ヒトは蚊に咬まれることによりWNVに感染する。流行地ではまれに輸血、臓器移植によりヒトからヒトに感染した事例が報告されている。

■流行地域

アフリカ、中近東、欧州、米州で流行している。日本では流行していない。日本においてWNVが自然界に存在するという事実は確認されていない。

■発生頻度

正確な患者発生数は明らかではない。1999年にWNV病流行が初めて確認された米国では、米国CDCによりWNV病患者数等が集計されている。その報告によると1999年以降患者数が増加し、2002年以降は約700人から約10,000人の間で推移している。

■潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は3-15日とされている。感染者の約80%は無症状で、WNV感染の多くは不顕性と考えられている。WNV病では発熱、頭痛、関節痛、倦怠感、食欲不振などの症状が出現する。リンパ節腫脹や発疹が出現することも比較的多い。予後良好の疾患であるが、WNV病患者の150人に約1人の割合で脳炎・脳脊髄炎を発症する。中枢神経障害に伴う症状(意識変容、麻痺、昏睡、震え、痙攣など)が出現する。脳炎は高齢者に多い。その致死率は約10%とされる。通常、末梢血液検査では白血球数や血小板数の低下が認められ、CRPは陰性または軽度上昇に留まる。

■予後

基本的には、予後良好な発疹性発熱性疾患と考えられるが、上記のように中枢神経感染にまでに至ると、死亡したり、回復したとしても後遺症を残したりする。

■感染対策

流行地では蚊に刺されないように注意する。
WNV病患者の診療においては標準予防策で対応する。

■法制度

「ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎含む)」は感染症法において4類感染症に指定されている。WNV病と診断された患者、疑似症、無症状病原体保有者、死亡者を診た場合には、直ちに最寄りの保健所に届出る。

■診断

「ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎含む)」の病原診断は、血清や脳脊髄液からのウイルス分離検査や、ウイルス遺伝子増幅検査ならびに血清学的検査結果に基づいて行われる。急性期患者の血清や脳脊髄液からRNAを精製し、それをテンプレートとしてRT-PCR法によりWNV遺伝子を増幅する検査も有用である。一方、急性期および回復期血清におけるWNVに対するIgG抗体価の有意な上昇を確認する方法やIgM抗体を検出する方法で診断することも可能である。ただし、WNVの抗原性はJEVのそれと近似していることから、正確なウイルス学的診断には中和抗体価の測定が求められる。

■診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に相談する。

■治療(救急対応)

特異的な治療法はなく、対症療法が基本である。

■専門施設に送るべき判断

中枢神経症状を呈するWNV病患者は、感染症専門医、神経感染症専門医のいる施設に搬送することが望ましい。

■専門施設、相談先

国立感染症研究所や渡航外来のある専門病院に相談するとよい。

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所ウイルス一部 西條政幸

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ