日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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チクングニア熱(Chikungunya fever)

病原体

トガウイルス科チクングニアウイルス(Chikungunya virus)。

感染経路

ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介する蚊媒介感染症。

流行地域

東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域。

発生頻度

日本国内では年間10-20例の輸入例が報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

典型的には2-4日間(範囲:1-12日間)の潜伏期間の後に高熱と強い倦怠感で発症し、発熱後すぐに強い関節痛、筋肉痛が出現する。その他の症状としては、頭痛、丘疹性紅斑などの皮疹(20-80%)、リンパ節腫脹(しばしば頚部)、結膜炎・ぶどう膜炎などの眼症状など、多彩な症状が出現しうる。これらの中で最も特徴的なのが関節痛である。大抵は対称性に複数の末梢関節を含むことの多い多関節痛で、指の関節や、手関節、足関節が多く90%の患者で四肢の関節が影響を受け、腫脹が見られることも一般的である。急性症状は1-2週間以内に改善するが、関節痛は数か月~数年間持続することもあり、関節リウマチなどと鑑別が難しい点が特に厄介である。急性期のみで関節痛が完全に消失する場合もあるが、多くの患者で持続性の関節痛は認められる。

予後

チクングニア熱は、以前は良性疾患と考えられていたが、稀に致死的な合併症を呈することが分かってきた。心筋炎、急性肝炎、腎不全、髄膜脳炎などが知られている。2005年から2006年のレユニオン島のチクングニア熱アウトブレイクでは、島民25万人が感染したと推定され、これらの合併症によって高齢者を中心に228人が死亡している。

感染対策

予防として、流行地域に渡航の際や、帰国後にチクングニア熱を発症した際には、蚊の刺咬を防ぐため忌避剤としてDEETが20%以上含まれた製品を用いるべきである。病院内での特殊な感染対策は不要である。標準予防策で対応する。ただし医療従事者の針刺し曝露による感染例が報告されている。

法制度

感染症法で4類感染症に指定されており、医師はチクングニア熱の確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

熱帯・亜熱帯地域への海外渡航歴があり、関節痛や関節炎を伴う発熱や皮疹などの症状がみられる患者ではチクングニア熱を疑い検査を行う。なお、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症は臨床症状や血液検査所見では鑑別が困難であり、これら3つの疾患をまとめて検査することが望ましい。
診断には、抗体検査、ウイルス培養、遺伝子検査による診断が必要となる。各検査が有効な時期は下記の通りである。いずれも地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査による。
・IgM抗体(ELISA法):症状出現後3-8日目頃から1-3か月間検出可能
・IgG抗体(ELISA法):症状出現後4-10日目頃から、数年間検出可能
・RT-PCR、ウイルス培養:症状出現後5-7日以内

診断した(疑った)場合の対応

その他の輸入感染症との鑑別などを含め、チクングニア熱を疑った場合には最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関への紹介が望ましい。

治療(応急対応)

チクングニア熱に有効な薬剤はない。治療は対症療法が中心となり、重症度によっては集中治療を要する。デング熱と臨床像が似ており、デング熱と鑑別がついていない段階では解熱剤にはアセトアミノフェンを用いる。NSAIDs投与はデング熱による出血症状を助長させる可能性があるためである。

専門施設に送るべき判断

チクングニア熱を疑った場合、最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介する。

専門施設、相談先

国立国際医療研究センター 国際感染症センター

役立つサイト、資料

  1. Weaver SC. Chikungunya virus and the global spread of a mosquito-borne disease. The New England journal of medicine. 2015 Mar 26;372(13):1231-9.
  2. 国立感染症研究所. 蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版).
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/Mosquito_Mediated_190207-5.pdf

(利益相反自己申告:研究費・助成金等(栄研化学株式会社))

国立国際医療研究センター 忽那賢志

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