日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive meningococcal disease)

病原体

グラム陰性双球菌である髄膜炎菌(Neisseria meningitides

感染経路

飛沫・接触感染である。家庭内や集団生活での濃厚接触はハイリスクとなる。宿主はヒトのみで、患者や鼻咽頭保菌者が感染源になる。

流行地域

日本では稀である。世界的にはサハラ以南のアフリカ中央部(セネガル~エチオピア周辺、髄膜炎ベルト)の乾季で多く、アメリカやイギリスなどの先進国でも流行がみられる。

発生頻度

世界では毎年約30万人の患者が発生し、約3万人の死亡例ある。国内では年間20~40例程度であり(英国の約1/10程度)、COVID-19流行期に減少がみられたものの、現在は再び増加してきている。無脾症や補体欠損患者はハイリスクである。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は2~10日(平均4日)である。無菌部位に菌が侵入する侵襲性感染症(菌血症、髄膜炎、髄膜脳炎など)を呈する。急性劇症型では副腎出血やdisseminated intravascular coagulation:DICを呈するWaterhouse-Friderichsen症候群がある。それ以外に肺炎や尿道炎などを起こす。主要症状は、突然の発熱、頭痛、意識障害、けいれん(髄膜炎症状)、紫斑(DICによる)がある。

予後

致死率は約10%(無治療の髄膜炎は50%)で10~20%に後遺症を残す。特に無脾症や補体欠損患者は予後が悪い。

感染対策

有効治療開始後24時間経過するまでは、飛沫・接触感染対策を行う。発症者の家族、集団生活を共にする濃厚接触者、適切な感染対策を行わずに挿管、吸引等を行った医療従事者は、曝露後速やかに予防内服を行う(健康保険適用外)。予防内服はリファンピシン、アジスロマイシン、シプロキサシンなどを用いる。シプロキサシンは国によって耐性化率が高いため、インバウンド症例では、母国の疫学に合わせた抗菌薬を選択する。
※髄膜炎菌ワクチンについて
国内では4価(血清型A, C, Y, W-135)結合型ワクチン(MCV4:メンクアッドフィ®)が任意接種で接種可能であり、ハイリスク患者は接種が推奨されている(補体阻害薬投与患者は保険適用あり)。MCV4は血清型Bに対しては効果がなく、近年、B型に対するワクチン(MenB:Bexero®, Trumenba®)も海外では販売されている(日本では未承認)。髄膜炎菌ワクチン接種可能施設は、渡航医学会HPを参照(http://jstah.umin.jp/02travelclinics/index.html

法制度

侵襲性髄膜炎菌感染症は感染症法上の五類全数把握疾患であり、疾患流行の観点から直ちに報告が必要である。

診断

血液や髄液の細菌培養検査もしくはPCR等の核酸増幅検査、ラテックス凝集試験にて診断する。後の菌株解析のため、採取検体と分離菌株は保存しておくことが望ましい。
患者の基礎疾患、集団生活歴、マスギャザリングへの参加歴、海外渡航歴、ワクチン歴は疾患を疑う重要な情報である。

診断した(疑った)場合の対応

ただちに感染対策を開始し、入院のうえ抗菌薬投与を開始する。ただちに濃厚接触者の検索と対応も行う。

治療(応急対応)

初期治療としては静注でセフォタキシムやセフトリアキソンを使用し、感受性があれば静注ペニシリンなども使用可能である。

専門施設に送るべき判断

治療に難渋した際には、紹介する。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関など

役立つサイト、資料

  1. MMWR Recomm Rep. 2013; 62: 1-28.
    https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6202a1.htm
  2. 国立感染症研究所.IDWR.2005年第20号.髄膜炎菌性髄膜炎
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/bac-megingitis/020/neisseria-meningitidis.html
  3. 国立感染症研究所.特集 侵襲性髄膜炎菌感染症 2005年~2013年10月.IASR Vol. 34 p. 361-362: 2013年
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrtpc/4176-tpc406-j.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

千葉大学大学院医学研究院小児病態学 竹下 健一

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