日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome; TSS)

病原体

黄色ブドウ球菌により産生されるtoxic shock syndrome toxin-1(TSS-1)をはじめとする菌体外毒素(exotoxin)が原因。レンサ球菌による毒素性ショック症候群はstreptococcal toxic shock syndrome(STSS)と称する。

感染経路

侵入門戸は、TSSでは月経用タンポン使用に伴うものが多く、術後や産後の感染もある。STSSでは皮膚からの感染が多い。

流行地域

全世界でみられる

発生頻度

国内での発生頻度は不明だが、米国では10万人あたり約.0.8人から3.4人と推定されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

突然発症で、高熱、低血圧、びまん性斑状紅皮症を認める。症状は急速に進行し、嘔吐、下痢、錯乱、筋肉痛、腹痛を呈するようになる。これらの症状は肝臓、腎臓、消化管、中枢神経などの多くの臓器障害を反映している。

予後

TSSの致死率は3%未満、STSSの致死率は50%程度。

感染対策

標準予防策を行う。TSSは再発リスクがあり、タンポン使用を控える。

法制度

黄色ブドウ球菌によるTSSは、感染症法に基づく届出対象疾患ではないが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は五類感染症であり届出基準を満たす確定患者と死亡者については7日以内に届出が必要である。

診断

表に診断基準を示す。黄色ブドウ球菌は血液培養から検出されないことが多い一方で、レンサ球菌は軟部組織感染に合併し検出されやすい。

表:診断基準

I. 体温:39℃以上
II. 収縮期血圧:90mmHg以下
III. 皮疹(紅斑がやがて剥脱。剥脱は特に手掌、測定で著明)
IV. 以下の臓器のうち少なくとも3か所に障害がある
A)消化管(嘔吐、下痢)
B)筋肉(筋肉痛、CK上昇:正常の2倍以上)
C)粘膜(膣/結膜/咽頭)の発赤
D)腎臓(BUN、クレアチニン:正常の2倍以上または無症候性膿尿)
E)肝臓/肝炎(ビリルビン、AST・ALT:正常の2倍以上)
F)血液像(血小板:10万/µL以下)
G)中枢神経系(局所所見がなく意識障害あり)
V. 血清学的に麻疹、レプトスピラ症、リケッチア症が存在しない

診断した(疑った)場合の対応

輸液療法、呼吸、循環動態の支持が必要である。培養検体はすべての病変、鼻腔、咽頭、膣、および血液から採取する。

治療(応急対応)

TSSが疑われる患者は直ちに入院させて、集中治療を行う。タンポンなどの異物は速やかに除去する。一次感染が疑われる部位に対して、洗浄、ドレナージ、壊死組織のデブリドマンを行う。培養結果が出るまでは、バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリドといったMRSAに感受性のある薬剤に加えて、毒素抑制のためにクリンダマイシンを併用する。静注用ヒト免疫グロブリン(IVIG)の有用性も示唆されている。

専門施設に送るべき判断

診断した(疑った)場合は全例三次医療機関(救命救急センター)へ転送する。

専門施設、相談先

三次医療機関(救命救急センター)

役立つサイト、資料

  1. トキシックショック症候群 医療従事者向けガイド
    http://www.jhpia.or.jp/standard/tss/img/guide.pdf

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構熊本医療センター救命救急科 櫻井 聖大

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