日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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侵襲性A群レンサ球菌感染症
(Invasive Group A streptococcal infection)

病原体

A群レンサ球菌(Group A Streptococcus pyogenes; GAS)。

感染経路

飛沫感染、接触感染である。

流行地域

侵襲性A群レンサ球菌感染症のうち、多臓器不全を来す劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年に米国で最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告されている。

発生頻度

侵襲性A群レンサ球菌感染症の発症頻度は不明である。日本における劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1992年に報告されて以来、2000年以降徐々に増加傾向にある。2015年415名、2016年494名、2018年583名が確認されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

通常、典型的な咽頭扁桃腺炎は、2-5日の潜伏期間の後、発熱、咽頭痛、苺状の舌などの症状を呈する。侵襲性A群レンサ球菌感染症の合併症として、壊死性筋膜炎、蜂窩織炎、化膿性関節炎などが挙げられる。その他に前述した「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は、四肢の疼痛、腫脹、発熱に加え、血圧低下など敗血症性ショック状態とされている。発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショックに陥る。

予後

劇症型は予後不良である。予後不良因子は患者側の背景因子で高齢者、糖尿病、悪性疾患、腎疾患、肝疾患等の基礎疾患、ステロイドや免疫抑制剤内服者が挙げられる。レンサ球菌側では、毒素産生能が強い、Mタンパクを作る遺伝子タイプemm1型が挙げられる。

感染対策

飛沫予防策+接触予防策を実施する。侵襲性A群レンサ球菌感染症と診断または疑われた患者は、個室隔離し、有効な抗菌薬開始後24時間は原則、隔離継続とし、必要に応じて延長する。

法制度

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は感染症法上5類症全数把握疾患である。確定患者、死亡者は保健所に7日以内に届け出る。

診断

検査キットや培養により、A群レンサ球菌の同定をする。同時に感染部位、合併症の評価を行う。また、無菌部位(血液、脳脊髄液、胸水、腹水、生検組織、手術創など)からGASの検出を試みる。また、グラム染色標本にてレンサ球菌を直接観察する。

診断した(疑った)場合の対応

医療関連のアウトブレイクも報告されているため、侵襲性GAS感染症が疑われる場合は隔離による入院管理が必要となる。

治療(応急対応)

①抗菌薬としてはペニシリン系薬が第一選択薬である。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が疑われる場合は、毒素産生を抑制するためにクリンダマイシン併用を考慮する。②全身管理、補液、血圧維持、呼吸管理など。③壊死性筋膜炎を合併している場合、壊死に陥った軟部組織は本菌の生息部位であり、可及的広範囲に病巣を外科的に切除することが救命に重要である。

専門施設に送るべき判断

重篤な合併症を認める場合や基礎疾患に免疫不全を有する場合は、専門施設における入院管理を検討する。ショックを伴う劇症型溶血性レンサ球菌感染症等では、集学的治療が行える医療機関での管理が必要となる。

専門施設、相談先

集学的治療が行える高度医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症とはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/341-stss.html
  2. 厚生労働省、劇症型溶血性レンサ球菌感染症 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html
  3. Guidelines for prevention and control of group A streptococcal infection in acute healthcare and maternity settings in the UK. J Infect. 2012; 64(1): 1-18.
  4. Necrotizing Soft-Tissue Infections.  N Engl J Med. 2017;377(23):2253-65.
  5. 国立感染症研究所、疫学情報 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/tsls.html

(利益相反申告:申告すべきものなし)

埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科 佐藤 智

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