日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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エムポックス(Mpox)

病原体

オルソポックスウイルス属に属するモンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス: MPXV)。MPXVはクレードIとクレードⅡの2つの系統があり、それぞれ2つのサブクレードが存在する。(クレードIa/IbとクレードIIa/IIb)

感染経路

接触感染と飛沫感染

  1. 動物からヒトへの伝播:感染動物との直接接触、感染動物からの受傷、感染動物の調理や生肉摂取により起こる
  2. ヒトからヒトへの伝播:患者の皮膚病変との直接接触(性的接触も含む)、食器の供用や患者の体液で汚染されたリネン類を介する感染、呼吸飛沫や体液曝露などにより起こる。

流行地域

もともとアフリカ中央部から西部が流行地であった。最近、WHOから2回の国際的な公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern;PHEIC)が宣言された。

  1. 2022年7月~2023年5月:2022年5月から欧米を中心に流行が拡大し、MPXVクレードIIb感染が主体であった。患者の多くは男性であり、男性間で性交渉を行う者(MSM; Men who have sex with men)が含まれていた。
  2. 2024年8月~:2023年にコンゴ民主共和国で拡大したクレードIによる流行が隣接国に拡大し、アフリカ大陸以外で輸入例が探知されたことを受けて宣言された。コンゴ民主共和国ではクレードIa/Ibいずれも流行しているが、クレードIaは家庭内感染、クレードIbは性的接触による男性および女性の性産業従事者とその利用客での感染伝播と報告されている。

発生頻度

国内では2022年7月25日に第一例が報告されて以降、2025年3月21日時点で251例の症例が確認されている。現時点では日本国内において、MPXV クレードIの感染例は探知されていない。

潜伏期間・主要症状・検査所見

2022年5月以降に流行した症例の特徴について記載する。潜伏期は6~13日(最大5~21日)で、発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの前駆症状が0~5日程度持続し、発熱から4日以内に発疹が出現する。前駆症状が見られない場合もある。発疹は紅斑→丘疹→小水疱→膿疱→結痂→落屑と移行し、時相が一致することが特徴と言われていたが、今回の流行では時相の異なる発疹が見られている。また男性間の性的接触が主な感染経路であることから肛門・直腸、口腔周囲に皮疹が見られる割合が増えている。合併症として蜂窩織炎、直腸炎、陰茎浮腫、扁桃腺炎・咽頭炎の頻度が高い。稀ではあるがウイルス性肺炎、心筋炎、角結膜炎、播種性病変、脳炎・脊髄炎が報告されている。

予後

通常2~4週間で自然軽快する。MPXV クレードIによる感染例はクレード II よりも重症化リスクの高い可能性が指摘されている。2022年からの流行では致死率が0.2%、2024年の流行では1.7~3.6%と報告されている。

感染対策

接触感染と飛沫感染を起こし、日常生活の中で空気感染を起こすことは確認されていない。ただし麻しんや水痘と臨床的に鑑別が困難であるため、標準予防策に加え接触、飛沫、空気予防策を実施する。

法制度

感染症法上四類感染症に指定されている。診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

行政検査による。皮疹の性状、分布、皮疹以外の症状、性交渉歴、アフリカ渡航歴からエムポックスを疑う場合には保健所に連絡・相談する。皮膚または粘膜病変、水疱内容液、鼻咽頭ぬぐい液、肛門直腸ぬぐい液、血液、尿などからMPXV抗原や遺伝子を検出する。クレードの違いによらず検出できる。

診断した(疑った)場合の対応

自施設で対応可能かどうか評価し、困難な場合は保健所に相談し、対応可能な施設に紹介する。

治療(応急対応)

軽症例では支持療法、疼痛コントロールおよび合併症に対する治療を行う。2022年に米国疾病予防管理センター(CDC)は、エムポックスの重症例、重症化ハイリスク例に対して抗ウイルス薬(テコビリマト)の使用を推奨していた。しかし臨床試験でテコビリマトの安全性は証明されたが、明確な有効性は示されなかったため、2024年12 月にテコビリマトのcompassionate useの対象者を表の1~3 の背景を有する患者に限定した。日本では2024年12月にテコビリマトの製造販売が了承されたが、一般流通しておらず、特定臨床研究の枠組みで投与が可能である

表.エムポックス患者の背景

専門施設に送るべき判断

国内では全国7医療機関において4つの特定臨床研究が実施されている。

専門施設、相談先

四類感染症であり最寄りの保健所に相談することができる。ほか国立国際医療研究センター病院、感染症専門医のいる中核病院やエイズ診療拠点病院等。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所. エムポックス https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/mpox/010/mpox-intro.html
  2. エムポックス診療の手引き第3.0版 https://www.mhlw.go.jp/content/001463222.pdf
  3. 国立感染症研究所. アフリカ大陸におけるクレードIによるエムポックスの流行について(第3報) https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/mpox/140/250328_clade1mpox_3.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都立墨東病院感染症科 中村(内山)ふくみ

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