日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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日本紅斑熱(Japanese spotted fever)

病原体

Rickettsia japonica

感染経路

節足動物媒介感染症である。R. japonicaを有するマダニがヒトを吸血することで感染する。媒介種として8種類のマダニが知られておりタイワンカクマダニ、ツノチマダニ、キチマダニ、ヤマアラシチマダニ、フタトゲチマダニからR. japonicaが分離されており、タカサゴチマダニ、オオトゲチマダニ、ヤマトマダニからR. japonica遺伝子が検出されている。

流行地域

2000年代前半の報告では千葉県以西の太平洋側で多く発生している。近年では北関東、東北からも報告されており、R. japonicaを有するマダニの分布域が拡大している可能性がある。ただし、これらの拡大地域では後に遺伝子検査によりR. japonica以外の紅斑熱リケッチア感染症と判明した症例もある。野山でのレジャーや農作業が曝露リスクとなる。マダニの活動時期である3月から10月にかけて発生し、特に夏に多い。

発生頻度

2006年までは年間30~60例の報告であったが、その後サーベイランスシステムの変更に伴い報告件数は増加し2015年以降では年間300例前後が報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は2~8日であり、鑑別疾患となるツツガムシ病の潜伏期間(5~14日)よりも短い。発熱、皮疹、刺し口が三徴とされるが、発熱と皮疹が90%以上の患者で見られるが刺し口が確認できるのは70%程度である。皮疹は体幹のほか、四肢、手掌・足底にもしばしばみられることがツツガムシ病との違いである。血液検査では血小板減少、肝逸脱酵素の上昇、CRPの上昇が見られる。20%程度で播種性血管内凝固を呈するため注意が必要である。

予後

2007~2019年の報告では届出時点の死亡例は31例(致命率1.1%)である。
急性感染性電撃性紫斑病の合併も報告されている。

感染対策

マダニの吸着を防ぐことが重要であり野山や河川敷に入る際は長袖長ズボンで肌の露出を避け、忌避剤(DEETなど)を適宜使用する。作業後は着替え、入浴を行うことが推奨される。
マダニ咬傷で受診した場合は速やかにマダニを除去する。リムーバーやピンセットで口器をつまんで除去する。マダニ除去後2週間は症状の出現に留意し症状出現時は速やかに受診するよう患者に指導する。予防内服は推奨されない。
重症例では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)と臨床像が類似しているため、診断が確定するまで飛沫感染予防策、接触感染予防策を実施する。

法制度

感染症法上四類感染症に定められており、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師はただちに最寄りの保健所へ届出が必要である。

診断

血清診断法として間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法、全血や痂皮を用いた遺伝子検査法があるがいずれも保険適応でない。所管の保健所を通じて地方衛生研究所や国立感染症研究所に検査を依頼する。鑑別疾患となるツツガムシ病の検索も行うことが望ましい。

診断した(疑った)場合の対応

早期診断・治療開始が重要である。全血・血清・痂皮などの検体を採取し結果を待たずに抗菌薬投与を開始する。

治療(応急対応)

第一選択薬はテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)である。
重症例に対するキノロン系抗菌薬の併用は死亡率を改善せず有害事象の頻度が増加する可能性が指摘されており、推奨されない。

専門施設に送るべき判断

多臓器不全、播種性血管内凝固などを発症した重症例は全身管理が必要なため高次医療機関または専門施設への搬送を検討する。

専門施設、相談先

国立感染症研究所ウイルス第一部第五室、最寄りの保健所(各都道府県の衛生研究所)

役立つサイト、資料

  1. リケッチア感染症診断マニュアル
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/images/lab-manual/Rickettsia20190628.pdf
  2. 国立感染症研究所.日本紅斑熱 1999~2019年.IASR Vol.41 p133-135: 2020年8月号
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/jsf-m/jsf-iasrtpc/9809-486t.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都立墨東病院・感染症科 小坂 篤志

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