日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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ジカウイルス感染症(Zika virus infection)

病原体

フラビウイルス科ジカウイルス(Zika virus)

感染経路

ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介する蚊媒介感染症。

流行地域

東南アジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域。

発生頻度

日本国内では2016年2月に感染症法上の4類感染症に指定された。2018年8月までに 20 例の輸入症例が報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

ジカウイルスに感染しても約80%は不顕性感染であると考えられている。ジカウイルスに感染した者のうち、約20%の患者が2-7日の潜伏期間を経て症状を呈する 。ジカウイルス感染症の臨床症状として頻度が高いのは、微熱を含む発熱、関節痛、皮疹(紅斑・紅丘疹)、眼球結膜充血である。これ以外にも頭痛、筋肉痛、後眼窩痛などの症状がみられることもある。

予後

一般的に軽症例が多く、入院を要することは稀である。またジカウイルス感染症ではデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない。ジカウイルス感染症の症状は通常1週間以内に消失する。ジカウイルス感染症罹患後、稀にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することが知られている。 また妊娠中にジカウイルスに感染することによって胎児に小頭症などの何らかの先天異常を伴う先天性ジカウイルス感染症を起こすリスクが高くなることが分かっている。

感染対策

予防として、流行地域に渡航の際や、帰国後にジカウイルス感染症を発症した際には、蚊の刺咬を防ぐため忌避剤としてDEETが20%以上含まれた製品を用いるべきである。病院内での特殊な感染対策は不要である。標準予防策で対応する。

法制度

感染症法で4類感染症に指定されており、医師は先天性ジカウイルス感染症を含むジカウイルス感染症の確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

熱帯・亜熱帯地域への海外渡航歴があり、微熱を含む発熱、皮疹や眼球結膜充血がみられる患者ではジカウイルス感染症を疑い検査を行う。なお、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症は臨床症状や血液検査所見では鑑別が困難であり、これら3つの疾患をまとめて検査することが望ましい。
ジカウイルス感染症の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出、またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる。発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが、ジカウイルス感染症の発熱期間はデング熱に比べて短く血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている。血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため、急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい。

診断した(疑った)場合の対応

その他の輸入感染症との鑑別などを含め、ジカウイルス感染症を疑った場合には最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関への紹介が望ましい。

治療(応急対応)

ジカウイルス感染症に有効な薬剤はない。治療は対症療法が中心となり、重症度によっては集中治療を要する。デング熱やチクングニア熱と臨床像が似ており、デング熱と鑑別がついていない段階では解熱剤にはアセトアミノフェンを用いる。NSAIDs投与はデング熱による出血症状を助長させる可能性があるためである。

専門施設に送るべき判断

ジカウイルス感染症を疑った場合、最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介する。特に患者が妊婦の場合は先天性ジカウイルス感染症の検査の適応など含め専門機関へ紹介することが望ましい。

専門施設、相談先

国立国際医療研究センター 国際感染症センター

役立つサイト、資料

  1. Weaver SC. Chikungunya virus and the global spread of a mosquito-borne disease. The New England journal of medicine. 2015 Mar 26;372(13):1231-9.
  2. 国立感染症研究所. 蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版).

(利益相反自己申告:研究費・助成金等(栄研化学株式会社))

国立国際医療研究センター 忽那賢志

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