日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

24
細菌性赤痢(shigellosis)

病原体

細菌性赤痢の原因となる赤痢菌には、Shigella sonneiS. flexneriS. dysenteriaeS. boydiiの4菌種があり、これらの菌種はさらに多くの血清型に分類されている。

感染経路

患者や保菌者の便中にある赤痢菌によって汚染された、食物や水を摂取することで感染する。流行国や流行地域からの帰国者に発症する輸入感染症例が中心であるが、輸入食品などを原因とした国内発生例などの報告もある。感染力が強いため、汚染された水や食品を介した二次感染として、飲食店における集団食中毒、保育園や福祉施設での集団発生なども起こっている。

流行地域

赤痢菌は、熱帯・亜熱帯を中心とした世界中の地域で発生しており、特に衛生環境が十分に整っていない地域、あるいは紛争等によって衛生環境の悪化した地域などで大きな流行を起こしている。我が国も含めた先進国における発生の大部分は、流行地域からの輸入感染症であり、汚染された飲食物を介しての二次感染もみられている。

発生頻度

かつては国内でも流行していた感染症であり、戦後には年間5~10万人以上の患者発生が報告されていたが、1960年代半ばからは衛生環境の改善とともに患者数が減少しはじめた。現在は輸入感染症としての発生が中心となっており、COVID-19流行前の2019年までの10年間では、年間100~300人程度まで報告数も減少している。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は1~5日で、その多くは感染してから3日以内に発症する。典型な症状としては、発熱、腹痛、下痢があり、血便やテネスムス(しぶり腹)を伴うこともある。下痢よりも発熱が先行することもあるが、通常は1~2日程度で解熱する。基本的には、このような大腸型の急性腸炎としての症状が中心であり、途上国の乳幼児における敗血症や髄膜炎の報告があるものの、腸管外での発症はまれである。S. dysenteriaeは毒素を産生することによって他の菌種の場合よりも症状が強く、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすこともある。しかし、現在はS.sonneiが中心となっており、一般的に症状は軽いことが多く、軽症の下痢や無症状の例もしばしばみられる。血液検査は非特異的な炎症所見を示すのみである。重症では、脱水所見による電解質異常、あるいは腎障機能障害の検査所見となることがある。

予後

稀に溶血性尿毒症症候群の合併、高度の脱水によって重症化することはあるが、先進国における赤痢の予後は比較的良好である。

感染対策

入院患者に対する感染対策は標準予防策である。自宅療養する患者には二次感染を防ぐために排便後の十分な手洗いを行うように指導し、飲食物を扱う業務では病原体を保有しなくなるまで就業制限を行う必要がある。

法制度

細菌性赤痢は感染症法の三類感染症に指定されている。診断が確定した場合には、直ちに最寄りの保健所へ届出を行い、菌の消失についても確認する必要がある。

診断

診断確定のためには、便の培養検査によって赤痢菌を分離同定することが必要である。近年はフルオロキノロンやアジスロマイシンへの耐性菌、あるいはESBL産生赤痢菌も報告されていることから、菌同定とともに薬剤感受性検査も行っておくことがすすめられる。

診断した(疑った)場合の対応

患者には二次感染を防ぐための指導を行っておく必要がある。食品関係や保育など職種によっては就業制限も検討する。

治療(応急対応)

治療の第1選択薬はフルオロキノロン系の抗菌薬であり、近年は、フルオロキノロン耐性菌も多く報告されるようになり、耐性が疑われる場合にはアジスロマイシンの選択が考慮される。

専門施設に送るべき判断

対応や診療に不安がある場合には、症状にかかわらず早めに専門の医療機関へ紹介してもかまわない。

専門施設、相談先

最寄りの保健所、感染症指定医療機関や輸入感染症の経験が多い病院の感染症専門医に相談可能である。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所.細菌性赤痢.IDWR 2002年第8号.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/dysentery/010/dysentery-intro.html
  2. アメリカ疾病管理予防センター(CDC):細菌性赤痢
    https://www.cdc.gov/shigella/about/index.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科 今村 顕史

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ