日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

46
鳥インフルエンザA(H5N1)感染症(avian influenza A(H5N1)infection)

病原体

野鳥の間で流行しているインフルエンザA(H5N1)ウイルスによるヒト感染症。

感染経路

感染経路として以下の2つがある。
①鳥から:ウイルスを保有する鳥の体液や糞、並びにこれらに汚染された環境に触れた手などを介し、ヒトの口、鼻、眼から感染する。また、これらの飛沫や塵埃を経気道的に吸入することで感染する。
②感染したヒトから:稀だがヒト-ヒト感染も起こり得る。
現時点で本ウイルスのヒトへの感染力は弱く、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていない。しかし本ウイルスは変異しやすいため、ヒトへの効率良い感染力を獲得する可能性が懸念されている。

流行地域

1997年香港で最初にヒト感染事例が報告された(18人発症、うち6人死亡)。2004年以降、ベトナム、インドネシア、エジプト、カンボジア等でヒト感染例の報告が続き、2015年にエジプトで136人/年という最大規模の発生があったが、その後報告が減り、2018年以降はヒト感染例の報告は殆ど無い(2019年6月現在)。流行地域は最新の情報を確認する必要がある。

発生頻度

WHOによると2003年-2019年2月までの約16年間の累積患者数は世界で860人、うち死亡数が454人である。殆どの患者で鳥との接触歴が確認されている。ウイルス保有鳥と接触したヒトが、ごく稀に発症すると考えられる。疑わしい患者については、患者発生地域での鳥との接触、生きた鳥を扱う市場(ライブマーケット)訪問、加熱不十分な鶏肉の摂食につき確認する。なお、これまでに邦人の感染例の報告は無い。

潜伏期間・主要症状

潜伏期間は概ね2-8日。初発症状はインフルエンザと類似し、ほぼ全例で38℃以上の発熱、咳嗽を認め、呼吸困難、咽頭痛・鼻汁、下痢、筋肉痛、頭痛などがみられる。検査では、末梢血白血球数減少、特にリンパ球減少、血小板減少がみられる。多くの例で肺炎を合併し、胸部X線で浸潤影やすりガラス状陰影を認め、急速に悪化し急性呼吸窮迫症候群(ARDS)となる。肺の病理所見はびまん性肺胞障害(DAD)である。

予後

致死率は53%と極めて高い。発症から平均9-10日(範囲6~30日)目に進行性の呼吸不全により死亡することが多い。

感染対策

医療従事者は、標準予防策、飛沫予防策、接触予防策に加え、空気予防策も採用することが勧められる。現時点では本ウイルスが空気感染するという確証は無いが、感染した場合は重症化することに配慮し、特にエアロゾルが発生する手技を行う場合は陰圧個室で実施する。また、医療従事者が十分な感染防御策をとらずに患者と接触した場合には、オセルタミビルやザナミビルを予防投与する。

法制度

感染症法上の2類感染症に指定されている。医師は、A(H5N1)感染症確定例、無症状病原体保有者、疑似症患者を診断、もしくは感染症死亡者、感染症死亡疑い者の死体を検案した場合は直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

「鳥インフルエンザA(H5N1)」は感染症法上の届出基準に基づいて診断する。鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、喀痰、気道吸引液、肺胞洗浄液、剖検材料のいずれかを検査材料とし、分離・同定による病原体の検出もしくは検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出により確定診断する。検査は通常医療機関では実施できないので、まず保健所に相談する。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に連絡し、指示を受ける。自施設に滞在中は、個室に収容し、上記の感染対策を開始する。

治療(応急対応)

発症早期からのノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル)の投与が推奨される。その他、輸液療法、酸素療法などの補助療法、細菌感染合併例への抗菌薬投与等を行う。高用量コルチコステロイドは推奨されていない。

専門施設に送るべき判断

本感染症の患者もしくは疑似症患者には、法に基づく入院勧告がなされ、特定、第一種あるいは第二種感染症指定医療機関のいずれかに入院となる。自施設が感染症指定医療機関でない場合は、保健所の指示により転送させる。

専門施設、相談先

最寄りの保健所に相談する。転送させる感染症指定医療機関と事前に情報交換する。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省.感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.6 鳥インフルエンザ(H5N1).https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-07.html
  2. 厚生労働省.鳥インフルエンザについて.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144461.html
  3. CDC. Information on avian influenza. https://www.cdc.gov/flu/avianflu/index.htm
  4. WHO. Avian and other zoonotic influenza. https://www.who.int/influenza/human_animal_interface/en/

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器)川名明彦

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ