日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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Q熱(Coxiella burnetii 感染症)(Q fever)

病原体:

Coxiella burnetii、偏性細胞内寄生性桿球菌でレジオネラ目に属する。表面のLPSに抗原的に異なるⅠ相とⅡ相の二つの相変異があり、それぞれに抗体が産生される。形態的には、Large-cell Variant(LCV)とSmall cell variant(SCV)がある。LCVは増殖型であり、SCVはグラム陰性球菌の芽胞に似た性格をもち、熱や浸透圧、機械的な圧力、化学物質や乾燥に抵抗性で、羊毛中では室温で7-10か月、生の食肉中で1か月以上、牛乳の中で40か月以上生存する。

感染経路

主な自然宿主は牛、羊、山羊などの反芻動物であるが、家畜哺乳類、海洋哺乳類、爬虫類、ダニや鳥類など多くの動物が保有している。感染している動物の妊娠産物に最も大量のウイルスが含まれ、便、尿、ミルクにも含まれる。人への感染経路は病原体を含むエアロゾルや塵埃の吸入によるものが多く、動物の分娩・流産時、屠殺時に、胎盤や排出物、皮革、羊毛、堆肥への曝露による。これらは長期間土壌に存在し、エアロゾルは風で30km広がることもある。ヒト-ヒト感染は感染妊婦の分娩時や肺炎患者、剖検時の感染が報告されている。

流行地域

人獣共通感染症であり、ニュージーランドを除く世界中から報告がある。感染伝播状況はそれぞれの国における動物宿主におけるC. burnetiiの循環動態を反映し、endemic地域には大きなoutbreakも報告されている。最近では2001-2010年のオランダでのアウトブレイク、アフリカでのhyperendemic situation、フランス領ギニアでの流行が報告されている。

発生頻度

地域によりかなり異なる。アフリカでは住民の抗体保有率はチャドの1%からエジプトの16%まで、最近ではナミビアの26%、アルジェリアでは村によっては30%という報告もある。上述のオランダでのアウトブレイクでは患者は40,000例以上と推計されているし、流行期のフランス領ギニアでは市中肺炎の24%が本病原体によるものと報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は2-3週で曝露量によって異なる。
初感染では60%は無症候性感染となり、症候性感染は肺炎、肝炎、インフルエンザ様疾患で、軽症では感冒様である。高熱で発症し15日以上続くこともあり、頭痛、筋肉痛を伴う。肺炎を発症するのは中年が多く、肺外症状(咽頭痛、嘔吐、腹痛、筋肉痛、関節痛)を伴い、また頭痛を伴うことも多い。肝炎型では発熱と肝逸脱酵素上昇で頭痛を伴うことが多い。他の病型として心外膜炎、心筋炎、心内膜炎も報告されている。
持続性感染で最も多いものは心内膜炎であり、初感染から進展するリスク因子として男性、40歳以上、そして既存の心弁膜疾患である。症状としては発熱、体重減少、盗汗、肝脾腫等で、潜伏性に進行して弁膜の破壊に及ぶ。検査所見では抗カルディオリピンIgG抗体高値となる(90IU以上)。血管感染は近年報告が増加しており胸部・腹部大動脈に多い。大血管の疾患、人工血管置換がリスクとなる。持続感染では稀ではあるが骨関節感染も報告されている。初感染後、疲労感が続く慢性疲労症候群(Chronic Fatigue syndrome)の記載がある。
妊婦での初感染は多くの場合無症候性であるが、流産、胎児発育不全や先天異常などの合併症のリスクがある。小児では無症候性感染率は高いが、症状としては上気道炎、インフルエンザ様疾患が多い。予後は一般に良好で、持続感染は稀であるが骨髄炎等の報告はある。

予後

初感染の予後はいずれも良好であり30日前後で改善する。肺炎型では致死率は1%と報告されている。持続感染ではオランダからの報告では心内膜炎を起こしていると致死率9.3%と報告され、血管感染では18-26%とされ予後不良である。

感染対策

標準予防策で対応するが、エアロゾルが生成される場合には空気予防策が必要となる。

法制度

「Q熱」は感染症法では4類感染症で、患者、疑似症、無症状病原体保有者、死亡者は直ちに届け出る。C. burnetiiはBSL-3病原体であり、感染症法上、3種病原体に指定されており、保持には届出が必要。

診断

間接蛍光抗体法による血清学的診断がもっとも一般的であり、初感染では抗Ⅱ相抗体が、持続感染では抗Ⅰ相抗体が上昇する。抗体価の診断基準は国と地域によって異なる。血液、組織でのPCRによる遺伝子の検出も可能である。培養細胞による病原体の分離も可能であるが、実験室内感染のリスクが高く、BSL-3を要する。

診断した(疑った)場合の対応

全血、血清を採取後、経験的に治療を開始し、検査を依頼する。

治療(応急対応)

初感染で症状があれば疑いの段階で治療を開始する。通常は年齢にかかわらずドキシサイクリンを使用するが、8歳以下の軽症例、妊婦ではスルファメトキサゾール・トリメトプリムも可能である。

専門施設に送るべき判断

本疾患では持続性感染のリスク評価と、それによっては進展予防が必要になることがあり、リスク評価が難しい場合、患者が妊婦の場合には専門施設に相談する。

専門施設、相談先

地域の基幹施設で感染症科のある医療機関、妊婦の場合には感染症科と産婦人科のある施設あるいは保健所を通して国立感染症研究所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. USCDC. Q fever. https://www.cdc.gov/qfever/healthcare-providers/index.html
  2. Eldin C, et al. From Q fever to Coxiella burnetii infection: Paradigm change. Clin Microbiol Rev 2017;30:115-190.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構三重病院 臨床研究部 谷口清州

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