日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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カンジダ・アウリス感染症Candida auris infection)

病原体

カンジダ・アウリス(Candida auris)。2009年に日本から初めて報告されたカンジダ属の真菌である。

感染経路

主として接触感染であり、ヒトの皮膚・その他の部位に定着したC. aurisが医療機器や院内環境(ベッドレール、ドアノブ、血圧計などの表面や物体)などを介してヒトからヒトに伝播する経路と考えられている。

流行地域

本邦を含め世界各国で分離されている。本邦での分離は主に耳由来であり、非侵襲性例が主である。一方、欧米を中心とした諸外国では、腋窩・鼠径などの皮膚への定着および血流感染症例が主であり、院内アウトブレイク例も複数報告されている。

発生頻度

本邦における正確な発生頻度は不明であるが、慢性中耳炎患者を中心として耳漏からの分離が散発的に認められる。

潜伏期間・主要症状・検査所見

皮膚・その他の部位への定着から疾患発症までの潜伏期間は不明である。本邦での分離は主として耳由来であり、慢性中耳炎・外耳道炎など耳鼻科疾患との関連が報告されている。主要症状は引き起こされる耳鼻科疾患により異なるが、耳漏症状を呈した患者で培養から本真菌が分離されることで確認される。諸外国では、腋窩・鼠径などの皮膚および血液培養(カンジダ血症患者)から主に分離される。腋窩・鼠径などの皮膚への定着に止まる場合は一般的に無症状であるが、血流感染症例は抗菌薬不応性の発熱、悪寒・戦慄、血圧低下など、菌血症としての症状を示す。

予後

耳への定着・感染例は非侵襲性感染症であり予後は一般的に良好であるが、血流感染症例は致死率の高い病態であり、予後不良である。

感染対策

皮膚などへの定着および血流感染症を呈する、海外での分離株が想定される症例の場合は特に、標準予防策に加えて接触感染予防策の徹底が重要である。入院時の腋窩・鼠径部への定着スクリーニング検査、定着患者の個室隔離、使用した医療機器や院内環境の消毒などを行い、C. aurisに院内における拡大を防ぐ必要がある。

法制度

現時点では感染症法における規定はない。2023年5月1日付で厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「多剤耐性で重篤な感染症を引き起こす恐れのあるカンジダ・アウリス(Candida auris)について(情報提供及び依頼)」が発出され、菌株分離に関する情報提供を呼びかけている。

診断

耳への定着・感染の診断は耳漏の培養が主である。また、皮膚への定着は腋窩・鼠径部の皮膚ぬぐい検体の培養により確認する。血流感染症の診断は血液培養がgold standardであるが、培養感度は高くないため、本真菌の感染症が疑われる症例においては複数回の培養が必要となることもある。

診断した(疑った)場合の対応

上述の事務連絡の情報に基づき、保健所・地方衛生研究所などへの報告あるいは国立感染症研究所 真菌部や実地疫学研究センター、国立国際医療研究センター 国際感染症センターへ相談が望ましい。

治療(応急対応)

侵襲性感染症に対しては速やかな治療開始が望ましい。カンジダ血症に対する第一選択薬としてエキノキャンディン系抗真菌薬(ミカファンギン・カスポファンギン)による治療が推奨されるが、分離菌株の薬剤感受性試験結果に応じて治療薬は最適化することが望ましい。耳漏から分離された場合は、症例ごとに治療の必要性を判断することが望ましい。

専門施設に送るべき判断

標準治療に抵抗性の場合や分離株が多剤耐性を示し難治性感染症が疑われる血流感染症例などは以下に記載する専門施設への相談が望ましい。また、非侵襲性感染症例の場合も含めて、分離株の同定・薬剤感受性試験などの検査が必要な場合も、専門施設への相談が望ましい。

専門施設、相談先

カンジダ・アウリス診療の手引きに沿って、相談事項ごとに以下の専門施設が相談窓口となっている。

  1. 診断・検査・病原体について
    国立感染症研究所 真菌部 shinkin-kensa@nih.go.jp
  2. 感染事例の実地疫学調査について
    国立感染症研究所 実地疫学研究センター shinkin-kensa@nih.go.jp
  3. 成人の治療・院内感染対策について
    国立国際医療研究センター 国際感染症センター idsupport@hosp.ncgm.go.jp
  4. 小児の治療・院内の感染対策について
    国立成育医療研究センター 感染制御部/感染症科

役立つサイト、資料

  1. 国立国際医療研究センター 国際感染症センター カンジダ・アウリス 診療の手引き
    https://dcc-irs.ncgm.go.jp/topics/candida-auris/candida-auris.html
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課 事務連絡「多剤耐性で重篤な感染症を引き起こす恐れのあるカンジダ・アウリス(Candida auris)について(情報提供及び依頼)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093562.pdf
  3. CDC. Candida auris (C. auris). https://www.cdc.gov/candida-auris/index.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所 真菌部 阿部 雅広

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