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レジオネラ症(legionellosis)
病原体
レジオネラ症はLegionella属菌による感染症であり、臨床的にはL. pneumophila(特に血清型1)が最も多く分離される。
感染経路
Legionellaを含むエアロゾルの吸入によって同菌が肺組織に到達することで感染が成立する。まれに、Legionellaで汚染された水や粉塵を吸入・誤嚥することにより発症する症例も報告されている。細胞内寄生菌であり、肺胞マクロファージ内で増殖する。
流行地域
レジオネラ症は世界中で認められる。Legionella属菌は自然界に広く生息しており、特に冷却塔、加湿器、給湯設備や循環式浴槽などの人工環境においてアメーバに寄生する形で増殖する。国内では温泉・入浴施設での集団発生事例が特に多い。
発生頻度
海外の多くの国では正確な発生頻度は不明であるが、アメリカ、ヨーロッパなどでは年間100万人あたり10~15件と報告されている。日本国内での2023年の届出件数は2,290件であり、男性に多い。また、50歳以上の症例が大多数である。国内では例年7月を中心に報告が増加しており、季節変動が比較的明確である。高齢、喫煙、大量飲酒、肺疾患、免疫機能異常などは感染のリスク因子となる。
潜伏期間・主要症状・検査所見
レジオネラ症は肺炎(肺炎型)とポンティアック熱(非肺炎型)が主要な病型である。
レジオネラ肺炎の潜伏期は2~10日程度(最大で16日程度)であり、初期には発熱、食欲不振、頭痛、消化器症状など様々な非特異的症状を呈し、症状のみではレジオネラ症の診断は困難である。湿性咳嗽を呈することも多く、3分の1の症例では血痰や喀血を合併する。適切な治療がなされない場合、1週間以内の経過で急速に進行し、呼吸不全や腎不全、さらに多臓器不全を呈することがある。また、意識障害や振戦などの神経症状や下痢などの消化器症状も比較的多く、これらを伴いながら致死的な経過をたどる場合もある。一方、ポンティアック熱は、潜伏期数時間から48時間程度であり、2~5日で自然軽快するインフルエンザ様症状(発熱、頭痛、倦怠感や筋痛)を呈する予後のよい病型である。
予後
レジオネラ肺炎による致死率は概ね5~10%程度とされ、治療の遅れや加齢、合併症により致死率はさらに上昇する。ポンティアック熱は比較的軽症であり、予後は良い。
感染対策
ヒト-ヒト感染はないため標準予防策でよい。
法制度
感染症法では四類感染症に分類され、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断後直ちに届け出る。
診断
温泉・入浴施設の利用歴などから疑うことが多い。イムノクロマト法による尿中抗原の検出が最も簡便である。従来広く用いられていた尿中抗原検査キットはL. pneumophila 血清型1を対象としているものであったため、これ以外の血清型によるレジオネラ症の診断が困難であった。しかし、2019年2月に血清型1-15のすべてを対象とした尿中抗原検出キットが新たに発売され、より多くのレジオネラ症患者の確定診断が可能となった。これ以外にも遺伝子検出、ペア血清による抗体価上昇などにより診断が可能である。
診断した(疑った)場合の対応
病歴からレジオネラ症(特にレジオネラ肺炎)を疑った場合は尿中抗原による診断が最も簡便である。肺炎型を呈するレジオネラ症は急速に重症化することも多く、初診時には軽症であっても入院を念頭に置いた治療を前提とするのが望ましい。
治療(応急対応)
キノロン系抗菌薬(例:レボフロキサシン)やマクロライド系抗菌薬(例:アジスロマイシン)が第一選択となる。
専門施設に送るべき判断
意識障害を呈する場合、臓器機能障害を呈する場合は集中治療が必要であり、高次専門医療機関への転送を検討するが、上記の通り初診時に軽症であっても専門医療機関への紹介が望ましい。
専門施設、相談先
呼吸器内科を有する、あるいは集学的治療ができる施設。
役立つサイト、資料
- WHO. Legionellosis, 6 September 2022. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/legionellosis
- WHO. Legionella and the prevention of legionellosis, WHO Press, 2007
- 国立感染症研究所.レジオネラ症 2013~2023年.IASR.2024年Vol.45
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/533/article/010/index.html - 国立感染症研究所.レジオネラ症
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ra/legionella/010/legionella.html
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
国立国際医療研究センター国際感染症センター 久保 赳人