日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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カンピロバクター腸炎Campylobacter enteritis

病原体

Campylobacter属菌による。Campylobacter属菌には十数菌種が知られているが、ヒトの腸炎の原因菌としてはC. jejuniが95%以上を占めている。ほかにはC.coliが数%程度である。

感染経路

飲食物を介する経口感染が主体であるが、まれに性感染症もありうる。

流行地域

日本を含む全世界で分離される。特に東南アジアなど熱帯・亜熱帯地域に多い。

発生頻度

細菌性食中毒の原因菌の半数以上を占めている。厚生労働省の統計によると年間の発生数は150万例に及ぶと推計されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

感染後2-7日程度の潜伏期を経て発症する。主な症状は腹痛、下痢、嘔吐といった急性胃腸炎症状であるが、高熱や頭痛、脱水といった全身症状を伴うことも多い。下痢は激しい水様下痢を呈することが多く、血便もまれではない。腹痛は右下腹部を最強点とすることが多く、虫垂炎と類似することも多い。発熱や頭痛は消化器症状に1-2日程度先行することもあり、初期にはインフルエンザや無菌性髄膜炎と鑑別を要する。血液検査では炎症反応の陽性や脱水所見を呈する。腹部CTでは回盲部を中心とした大腸壁の肥厚や回盲部リンパ節の腫大などを呈する。糞便のグラム染色では翼を広げたカモメのような形状の細菌が観察できることがあるが、実臨床での有用性は低い。

予後

良好である。通常は対症療法のみでも3-7日程度で改善する。合併症としては発症1-2週間後にギランバレー症候群を発症することが知られている。米国ではおよそ1,000例に1例程度の頻度と推定されている。

感染対策

基本的には糞口感染症であり、現在のわが国の衛生水準であれば、排便後や飲食前の手洗いで予防可能である。排便の自立した入院患者では標準予防策で十分であるが、小児や高齢者など排便介助やおむつが必要な場合には、接触予防策が必要となる。

法制度

本疾患自体は感染症法で規定される感染症には規定されていない。ただし、感染性胃腸炎として5類感染症定点把握疾患に含まれている。
食中毒と診断した場合は食品衛生法により直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

若年者で突然の高熱と右下腹部痛を伴う頻回の水様性あるいは血性の下痢を呈する場合には、まず本症を疑う。糞便培養からCampylobacter属菌を分離することによる。糞便中からCampylobacter抗原を検出する迅速診断キットも上市されているが、感度や特異度が必ずしも高くはないことや、保険診療上の制約などから一般的な普及には至っていない。

診断した(疑った)場合の対応

症状から本疾患を疑った場合には、詳細な喫食歴の問診により原因食品を推定するとともに糞便培養を提出する。糞便培養からCampylobacter属菌が検出されれば確定診断となる。保健所への届出など特別な対応は必要ない。

治療

抗菌薬投与は不要なことが多く、原則として対症療法を優先する。脱水が著しく経口摂取が不良な場合は、経静脈的な補液を要するが、経口摂取が可能な限り経口補液を優先する。水分と電解質、糖質の配合バランスにすぐれた経口補水液が市販されているので、手軽に勧められる。高齢者・幼小児・免疫不全者・妊婦などで、重症の場合には抗菌薬の投与も考慮する。第一選択薬はクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどのマクロライド系薬となる。レボフロキサシンなどニューキノロン系薬はわが国を含め世界各地から耐性化率の上昇が報告されており、確定例には投与を避けるべきである。

専門施設に送るべき判断

通常は一次医療機関で対応可能である。重症例で入院が必要と判断される場合には地域の二次医療機関を紹介する。特殊な感染症ではないので、感染症指定医療機関である必要はない。

専門施設・相談先

高度の専門施設は第一種あるいは第二種感染症指定医療機関であるが、地域の相談先としては感染防止対策加算1を算定している医療機関を把握しておくとよい。

役立つサイト、資料

  1. 一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65
  2. 坂本光男、他:腸管感染症.抗菌薬パーフェクトガイド、渡辺彰編、初版、ヴァンメディカル、東京、2016; 226-33.
  3. 坂本光男:診療科別プロが示す「抗菌薬適正使用」の理論と実践 消化器内科.感染と抗菌薬2018;21:15-20
  4. 厚生労働省健康局結核感染症課. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

川崎市立川崎病院感染症内科 坂本光男

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