日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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オロプーシェ熱(Oropouche fever)

病原体

ブニヤウイルス目ペリブニヤウイルス科オルソブニヤウイルス属に属するRNAウイルスである、オロプーシェウイルスの感染による。

感染経路

ヌカカ(Culicoides paraensis)が主要な媒介動物であり、都市部と森林地帯で感染環が異なる。都市部ではヒトが感染宿主となり、ヒトとヌカカの間で感染環が形成されている。一方で森林地帯ではヒト以外の霊長類、ナマケモノ、鳥類等の野生動物との間で感染環を形成する。ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)、コキレッティディア・ベネズエレンシス(Coquillettidia venezuelensis)、ヤブカ(Aedes serratus)といった一部の種類の蚊もウイルスを保有すると報告されているが、感染媒介能力については不明な点が多い。

流行地域

オロプーシェウイルスは1955年にトリニダード・トバゴで発熱した森林労働者から初めて分離された。その後ブラジルのアマゾン熱帯雨林地域や、パナマ、ペルー、エクアドル、トリニダード・トバゴ、コロンビア、アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ、フランス領ギニアなどで散発的な流行が確認されていた。2023年後半より南米、中米、カリブ海の多くの国で大規模な流行が生じている。

発生頻度

PAHO(Pan American Health Organization)によると2024年10月までに中南米、カリブ海での流行において12,750件の感染者が報告されており、ブラジルでの感染者が2/3程度を占める。またキューバなど過去に感染例のない国での感染も報告されている。さらに渡航者が非流行地域で発症した例が報告されており、現在までに米国で90例の感染者が報告されている他、スペイン、イタリア、ドイツ等でも渡航者での少数の報告例がある。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は典型的には4~8日(3~12日の範囲に及ぶ)であり、症状としては突然の高熱(39-40℃)、頭痛(特に後眼窩痛)、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、悪寒、めまい、吐き気などがみられる。またより頻度の低い症状として結膜充血、下痢、強い腹痛、出血症状等の報告がある。最大4%程度に髄膜炎や脳炎等の神経侵襲性の症状を呈するとされる。

予後

症状は通常1週間未満で回復するが、最大60%程度の感染者で最初の症状の回復後、数日から数週間以内に症状の再発を経験する。妊娠中の感染に関するデータは現時点で症例報告に限られており、最新の情報を確認すべきである。垂直感染の頻度や胎児への影響については不明だが、ブラジルにおける妊娠中の感染で死産や重度の小頭症の報告がある。

感染対策

オロプーシェ熱に対する特異的な予防薬やワクチンは存在せず、感染から身を守るためには、ヌカカ等の媒介昆虫からの吸血を予防することが重要である。長袖長ズボン、帽子、靴下などの着用や蚊帳の使用、DEET(N, N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)やイカリジン(ピカリジン)などの有効成分を含む虫除け剤を使用する。

法制度

日本では、オロプーシェ熱は感染症法に基づく届出対象疾患ではない。しかし診断が疑われる場合は公衆衛生上の観点から、地域の保健所に連絡することを考慮する。

診断

現時点で利用可能な商業的検査はなく実験室診断となる。血清からのウイルス分離やRT-PCRによるウイルスゲノム検出が行われ、神経侵襲性病態の感染者には髄液検査も考慮される。また血清学的検査としてウイルス特異的IgM抗体の検出やペア血清による中和抗体価の上昇を検査することも検討される。

診断した(疑った)場合の対応

日本では2024年10月現時点で報告例がなく、オロプーシェ熱の診断が疑われる場合は保健所や、国立感染症研究所等のしかるべき研究機関、感染症指定医療機関などに相談し、必要な検査について相談する。また蔓延地域におけるオロプーシェ熱に類似した臨床症状を呈する他疾患(デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス、マラリア等)の除外も必要である。

治療(応急対応)

特異的な治療法はなく、支持療法が中心である。解熱剤、鎮痛剤等で症状を緩和する、脱水症状を防ぐため水分補給を励行する等の対処をおこなう。重症例では入院を考慮する。

専門施設に送るべき判断

診断した(疑った)場合の対応に準じて対応する。

専門施設、相談先

地域の感染症指定医療機関、検査相談先として保健所・地方衛生研究所や国立感染症研究所

役立つサイト、資料

  1. Red Book Online Outbreaks: Oropouche Virus.
    https://publications.aap.org/redbook/resources/29960/Red-Book-Online-Outbreaks-Oropouche-Virus
  2. CDC. Clinical Overview of Oropouche Virus Disease
    https://www.cdc.gov/oropouche/hcp/clinical-overview/index.html
  3. CDC. Interim Clinical Considerations for Pregnant People with Confirmed or Probable Oropouche Virus Disease
    https://www.cdc.gov/oropouche/hcp/clinical-care/pregnancy.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Foropouche%2Fhcp%2Fclinical-care-pregnancy%2Findex.html
  4. 国立感染症研究所.オロプーシェ熱とは.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/12746-oropouche-intro.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立国際医療研究センター国際感染症センター 野本 英俊

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