日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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A型肝炎(Hepatitis A)

病原体

A型肝炎ウイルス(HAV)(ピコルナウイルス科、へパトウイルス属)。

感染経路

汚染された飲食物の摂取による経口感染、性交渉を含む糞口感染。

流行地域

全世界に分布する。特にサハラ以南アフリカ、南アジアで罹患リスクが高い。

発生頻度

全世界での罹患者は年間150万人と推測される。日本での報告は、年間100-300例程度であるが、数年に一度全国的な流行が認められ、2014年は433例、2018年は925例と報告数が増加した。海外渡航との関連では、抗体陰性者が高浸淫地域に1か月滞在した場合の罹患リスクが5-14症例/10万人程度と報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は15-50日間、平均28日間である。典型的には、発熱や頭痛などの前駆症状が数日続いた後、食思不振や嘔気嘔吐、褐色尿、黄疸、白色便などの症状を呈す。インフルエンザのように強い悪寒を伴う高熱で発症することもある。他のウイルス性肝炎と比べ、発熱や筋痛・関節痛などの全身症状を呈す症例の割合が多いと報告されているが、症状のみでの鑑別は困難である。身体診察上は眼球結膜や皮膚の黄染に加え、50-80%の症例に肝腫大を認め、40-50%の症例で肝の圧痛を伴う。検査所見では、肝逸脱酵素(AST、ALT)上昇(しばしば1,000IU/L以上)、直接型優位のビリルビン上昇が特徴である。5歳以下では多くが不顕性感染で、有症状でも黄疸を呈す割合が低い。年齢が上がるにつれ顕性感染が増え、青年期以降は70%以上の症例で黄疸を呈す。発症後2-3週間で自覚症状や他覚所見は改善に向かう。発症2-3ヶ月以内に85%の症例が、半年以内にほぼ全ての症例が治癒する。B型肝炎やC型肝炎と異なり、慢性化はしない。また、一度罹患すると終生免疫が得られる。主な合併症は、劇症肝炎(急性肝不全)、急性腎障害、胆汁うっ滞性肝炎、無石性胆嚢炎、肝炎再燃、溶血性貧血などである。特に、劇症肝炎は致死的となりうる重篤な合併症である。日本では、高度の肝機能障害に肝性昏睡(昏睡Ⅱ度以上)、肝合成機能障害(プロトロンビン時間≦40%)を合併すると劇症肝炎と診断される。劇症化を疑う症状として、興奮や易刺激性、不眠、混乱などの精神神経症状や繰り返す嘔吐がある。劇症肝炎は、50歳以上や、慢性C型肝炎など他の肝疾患を有す症例に生じやすい。日本の全国調査では、劇症肝炎の3%はA型肝炎が原因であった。

予後

全年代通しての致死率は0.3%程度とされる。若年者では概ね予後良好であるが、50歳以上では劇症肝炎など合併症の頻度が高く、致死率が1.8-5.4%と上昇する。

感染対策

感染者の便中には発症後数ヶ月間ウイルス排泄が続くが、最も感染性が強いのは発症2週間前から発症後1週間である。HAVは酸や乾燥に強いが、塩素消毒や食材の十分な加熱(85℃を1分間以上)により失活する。医療機関では標準予防策で対応する。患者の家庭では、排泄物の適切な処理や手洗いの励行を指導する。流行地域への渡航者には、未加熱の野菜や魚介類・生水の摂取、屋台での飲食を避けるよう指導する。感染予防には不活化ワクチン接種が有効で、接種者の抗体獲得率はほぼ100%である。流行地域への渡航者全員に接種が推奨される。2週間以内に曝露のあった接触者に対しては、不活化ワクチンまたは免疫グロブリンによる曝露後予防が考慮される。

法制度

感染症法では4類感染症に分類され、全数把握疾患である。医師は確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。

診断

急性発症の発熱に黄疸・肝逸脱酵素上昇を伴う場合、あるいは発熱がなくとも原因不明の黄疸や肝逸脱酵素の上昇を認める場合、A型肝炎を疑い検査を行う。疾患特異的な検査とし、血中HAV-IgM抗体を測定する。発症2週間以内は10%程度の症例で偽陰性となりうる。初回検査が陰性でも疑いが残る場合、1-2週間後の再検が勧められる。血液・便からのPCR法によるHAV検出でも診断可能だが、実施可能な施設は限られる。

診断した(疑った)場合の対応

家族内感染や集団感染を生じうるため、保健所と連携し、適応となる濃厚接触者には曝露後予防を勧めるなどの対応を講じる。

治療(応急対応)

肝障害が強い症例は入院で加療する。安静、対症療法が中心となる。肝障害を来たしうる薬剤の投与を避けることも重要である。

専門施設に送るべき判断

特に高齢者や肝障害が強い症例では劇症化のリスクもあり、急性肝炎の治療経験が豊富な施設での治療が望ましい。

専門施設、相談先

全国の肝疾患診療連携拠点病院、日本肝臓学会認定施設・関連施設。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省検疫所. FORTH. 感染症についての情報:A型肝炎 https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name01.html
  2. CDC. Travelers’ Health. Yellow Book. Chapter 3, Hepatitis A. https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/hepatitis-a
  3. WHO. Fact sheets. Hepatitis A. https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/hepatitis-a

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

京都大学大学院医学研究科 臨床病態検査学 篠原 浩

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