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ビブリオ・バルニフィカス感染症(Vibrio vulnificus infection)
病原体
Vibrio vulnificusによる。本菌は好塩性のグラム陰性桿菌。
感染経路
海水(特に汽水域)との接触および魚介類により生じた創傷からの経皮感染。および生あるいは加熱不良の魚介類(特に汽水域で取れる甲殻類・海産魚介類)の摂取による経口感染。
流行地域
温暖地域の海水中およびそこに生息する魚介類表面で増殖する。基本的には20℃以上の温度を好み、低温では増殖しない。日本国内でも現在までに200例以上の報告例がある。報告は関東以南の太平洋岸・瀬戸内海沿岸地域・東シナ海沿岸地域が多い。
発生頻度
詳細な発生率は不明。夏季の発生頻度が高く、逆に冬季の報告は極めて稀(奄美地方では冬季の報告例がある)。また、アルコール性肝炎や肝硬変などの肝疾患患者、ヘモクロマトモーシスなど体内の鉄過剰患者での発生が多い。また重症感染は女性に比べ男性とくに高齢男性で頻度が高くなる。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は最短3時間から6日程度。
経口感染の場合、健常者では多くは水様下痢などの感染性腸炎症状が主体であるが、無症状のこともある。肝疾患患者では、経口感染から菌血症を呈する。症状は激烈であり、来院後12時間以内にショックを呈する。また皮膚に水疱性病変を生じることも多い。検査所見では血小板減少とDIC徴候が顕著に現れる。また消化管出血を呈することも多い。
経皮感染の場合、健常者では軽微な蜂窩織炎症状を呈するのみの場合も多いが、肝疾患患者では壊死性軟部組織感染症やガス壊疽の症状を呈し、急速に病変が拡大する。
予後
菌血症の致死率は極めて高く、40%程度である。特に来院時にショックを呈する患者の場合、致死率は90%近いとする報告もある。
感染対策
肝疾患患者などのハイリスク患者では、特に生牡蠣などを中心として魚介類の生食を避けるよう指導する。また創傷のある皮膚の海水曝露(特に6~10月)を避けることも重要である。なお、予防内服等の曝露後予防法は確立されていない。ヒトからヒトへの感染事例の報告はなく、患者診療時は標準予防策で対応する。また特別な消毒法を実施する必要はない。
法制度
感染症法上の届出疾患には指定されていない。
診断
確定診断には、血液培養あるいは組織培養などからのV. vulnificusの分離が求められる。しかしながら、急激に病態が悪化することより、肝疾患患者などのハイリスク患者において、魚介類摂取後の特徴的な水疱性の皮膚病変や、ショック、発熱が認められた場合には疑似症と診断し直ちに治療を開始する。また海水や魚介類との曝露後に生じた急激に進行性する壊死性皮膚軟部組織感染症を認めた場合にも同様にV. vulnificus感染症の疑似症患者として治療を開始する。
診断した(疑った)場合の対応
直ちに治療を開始する。
治療(応急対応)
セフトリアキソン(あるいはセフォタキシム、セフタジジム)にミノサイクリンあるいはドキシサイクリンを併用する。代替選択肢はシプロフロキサシンあるいはレボフロキサシンとなる。
また壊死性皮膚軟部組織感染症の場合、局所の切断等も含めた外科的デブリドマンを緊急で実施する。全身管理は集学的管理を行うICUでの管理が望ましい。
専門施設に送るべき判断
ショックや皮膚軟部病変を伴う場合には直ちに高次医療施設に紹介する。
専門施設、相談先
特段の専門施設は存在しない。集中治療や外科的介入が可能な施設での管理が望ましい。
感染症専門医等の在籍する施設がより望ましい。
役立つサイト、資料
- UpToDate. Vibrio vulnificus infections.
https://www.uptodate.com/contents/vibrio-vulnificus-infection#:~:text=Vibrio%20vulnificus%20is%20a%20gram,with%20liver%20disease%20or%20hemochromatosis - 厚生労働省.ビブリオ・バルニフィカスに関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/060531-1.html#6
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国立病院機構東京医療センター救急科 藤沢 篤夫