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レプトスピラ症(Leptospirosis)
病原体
運動性の高い好気性スピロヘータであるレプトスピラ属細菌(Leptospira spp.)による。レプトスピラには病原性と非病原性があり、顕微鏡下凝集試験(Microscopic Agglutination Test: MAT)に基づいて250以上の血清型に分類されている。
感染経路
自然界ではげっ歯類、ウシ、ブタ、イヌ、ウマなどの哺乳類が感染・保菌しており、これらの動物の尿から環境(水や土壌)へ微生物が供給される。この汚染された環境や動物から皮膚の傷、結膜、粘膜を介して人に感染する。河川でのレジャー・スポーツ、動物との接触、流行地域への渡航歴、洪水や津波の経験といった病歴からレプトスピラ症を想起する。
流行地域
世界中に分布するが、熱帯・温帯地域(特に東南アジア、南アジア、中南米など)で多く報告されている。
発生頻度
国内では、2016~2022年に計273例が報告されている。94%が国内感染例であり、年間の発生は17~76例である。約6割が沖縄県、次いで鹿児島県が多いが、推定感染地は27都道府県に渡り、近年は北海道からの報告もある。患者は7~10月に多く集中する。国外の推定感染地は東南アジアが大半を占める。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は通常5~14日であるが、最短2日、最長1か月と幅がある。症状は非特異的で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、咳嗽、消化器症状、皮疹などがある。これらの症状は幅広く個人差が大きいことも特徴である。身体所見は結膜充血が多く見られる。重症になると黄疸、肝不全、腎不全、肺胞出血、髄膜炎、不整脈、心不全など多臓器に症状が出現しうる。黄疸と腎不全を伴う病型はWeil病として知られる。検査所見は肝障害、黄疸、腎障害、蛋白尿、血小板減少、電解質異常(低Na血症、低K血症)などを呈する。
予後
多くは軽症で自然軽快する。重症例は死亡率が5~20%と報告される。
感染対策
標準予防策で対応する。国内で使用できるワクチンはなく、流行地では感染を避けるように行動することが最善である。そのため、旅行者には汚染された淡水やげっ歯類が生息している地域を避けるよう助言し、必要に応じて防護するための衣服の着用や履物を指導する。抗菌薬の予防投与はエビデンスが確立していない。
法制度
四類感染症である。診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届出を行う。
診断
PCR(血清、尿、髄液など)、MATで行う。MATは、患者血清とレプトスピラ生抗原懸濁液を混合し、顕微鏡で凝集を観察して抗体価を決定する方法である。確定診断には急性期と回復期のペア血清が必要である。培養も選択肢となるが一般的な培地で発育しにくいことから、専用の培地を要する。このような検査特性から、病歴聴取や診察からレプトスピラ症を疑えるかどうかが重要となる。
診断した(疑った)場合の対応
検査結果が出るのを待たずに、早期に抗菌薬治療を開始する。早期治療は重症化を防ぎ、罹病期間を減らすのに効果的とされる。
治療(応急対応)
軽症の場合はドキシサイクリンやアジスロマイシンの内服で治療する。中等症~重症の患者にはペニシリン系や第三世代セフェム系の静注を行う。抗菌薬治療開始後は発熱、血圧低下などのJarisch-Herxheimer反応に注意する。
専門施設に送るべき判断
重症の場合は多臓器不全を呈しうるため、集学的治療が可能な施設への搬送を検討する。
専門施設、相談先
まずは最寄りの保健所に相談する。地方衛生研究所で検査が難しい場合は、国立感染症研究所細菌第一部に検査を相談できる。
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所.レプトスピラ症の発生状況 IASR Vol.44 p29-30:2023年2月号
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/11809-516r06.html - llana Schafer, et al.. CDC Traveler’s Health. Section5. Leptospirosis.
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/leptospirosis - Nicholas Philip John Day. Leptospirosis: Epidemiology, microbiology, clinical manifestations, and diagnosis. UpToDate.
- Nicholas Philip John Day. Leptospirosis: Treatment and prevention. UpToDate.
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京都立 墨東病院・集中治療科 後藤 崇夫