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コレラ(Cholera)
病原体
コレラ菌(Vibrio cholerae)は、表面抗原(O抗原)により多くの血清型に分類されるが、そのうち「O1」か「O139」の血清型のいずれかを示し、さらにコレラ毒素を産生する菌。
感染経路
患者や保菌者の便中のコレラ菌に汚染された、食物や水による経口感染によって感染する。
流行地域
コレラの発生は、その地域の衛生環境と密接に関連し、熱帯や亜熱帯の衛生環境が整っていない地域で多く発生している。近年は、かつては途上国とされてきた国々の衛生環境も徐々に改善してきており、そのような地域での発生は減少した。その一方で、いまだに衛生環境が十分に整っていない地域、あるいは紛争等によって衛生環境の悪化した地域での発生は続いている。我が国も含めた先進国における発生の大部分は、流行のある熱帯や亜熱帯の地域への渡航者、あるいは流行地域から持ち込まれた飲食物を介しての感染となっている。
発生頻度
日本におけるコレラの報告数は年々減少してきている。2000年代前半は年間50~100人程度の発生があったが、2021年末までの過去10年間の報告数では年間10人以下の発生となっている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
感染してからの潜伏期間は数時間~5日間で、下痢や嘔吐によって発症する。発熱や腹痛を伴うことはまれである。典型的な重症例では、「米のとぎ汁」様の大量の水様性下痢と嘔吐をきたし、著明な脱水による「コレラ様顔貌」や腎不全などが起こる。近年、世界で流行しているコレラでは、比較的症状の軽いものが多いとされるが、医療環境が整っていない途上国や紛争等によって衛生環境の悪化した地域では、栄養状態が悪い小児や高齢者を中心に重症例や死亡例もみられる。血液検査では非特異的な炎症所見を示し、重症例では脱水による電解質異常や腎機能障害を伴う検査所見となる。
予後
重症例における脱水と電解質異常の対応を行うことができれば、コレラの一般的な予後は良好である。コレラ菌は胃酸によって減少するが、胃切除後の患者や制酸剤の内服者においては、より重症化しやすくなるため注意が必要である。
感染対策
標準予防策で対応可能だが、排泄介助やおむつが必要な患者については接触予防策をとる。
二次感染を防ぐために排便後の十分な手洗いを行うように指導する。飲食物を扱う業務では病原体を保有しなくなるまで就業制限を行う必要がある。
法制度
コレラは、感染症法において三類感染症に指定されており、診断が確定した場合には直ちに最寄りの保健所へ届け出なければならない。さらに菌の消失についても確認する必要がある。
診断
確定診断のためには、便培養によってコレラ菌を分離して、その血清型がO1かO139であることを確認する。さらに、毒素産生か毒素遺伝子を証明することが必要である。
診断した(疑った)場合の対応
コレラを疑った場合、最寄りの保健所に相談し、地方衛生研究所に検査を依頼することができる。患者には二次感染を防ぐための指導を行っておく必要がある。食品関係や保育など職種によっては就業制限も検討される。
治療(応急対応)
コレラの治療は、ニューキノロン系の抗菌薬が第一選択であり、抗菌薬の投与にて排菌期間の短縮化が期待できる。近年は、キノロン耐性のコレラ菌も増加しており、この場合にはアジスロマイシンの投与が検討される。
コレラにおいては、小腸性の大量の下痢に注意が必要であり、重症例では補液脱水や電解質異常の補正をしっかりと行うことが重要である。 特に脱水の影響を受けやすい小児や高齢者においては、初期から脱水への対応を開始することが大切である。
専門施設に送るべき判断
対応や診療に不安がある場合には、症状にかかわらず早めに専門の医療機関へ紹介してもかまわない。
専門施設、相談先
最寄りの保健所、感染症指定医療機関や輸入感染症の経験が多い病院の感染症専門医に相談可能である。
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所. コレラ.IDWR 2000年第1号.
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/cholera/010/cholera-intro.html - アメリカ疾病管理予防センター(CDC):About Cholera
https://www.cdc.gov/cholera/about/
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科 今村 顕史