日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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B型肝炎(Hepatitis B)

病原体

B型肝炎ウイルス(ピコルナウイルス科、へパトウイルス属)。

感染経路

血液、体液を介して感染する。小児は周産期の母子感染だけでなく、出生後に周囲の家族や集団生活の中で唾液等を介して接触感染する。成人では、性交渉、針刺し、医療曝露などが感染経路となる。

流行地域

世界中で流行している。特にサハラ以南アフリカの有病率が高く、アジアは中程度、北米・西欧は低い。

発生頻度

日本では人口の約1%(約130から150万人)が感染していると推定されている。新規の患者は、不顕性感染を含め年間10,000人程度と推定されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

患者の免疫応答によりその予後は異なる。
乳幼児期の感染では、多くが持続感染となり小児期を過ごし、成人期に免疫応答が起き活動性肝炎、その後沈静化を経て一部は臨床的緩解となり、一部は肝炎が遷延し肝硬変、肝癌に進展する可能性がある。
成人期の感染では、1-数か月程度の潜伏期を経て急性肝炎となる。倦怠感、発熱、食欲不振、嘔気・嘔吐、右季肋部痛などの症状がみられ、続いて黄疸が出現する。黄疸が出現するのは30%-50%程度で、軽症の患者では黄疸もなく感染自体に気がつかないことがある。重症の場合には劇症肝炎を来す可能性がある。症状に先行し血液検査でAST、ALT、ビリルビンなどの肝胆道系酵素の増加があり、感染を疑うきっかけとなる。PTは予後予測に有用である。早期に急性肝炎が起きその後沈静化するのが一般的であるが、欧米に多いHBVゲノタイプAの増加に伴い成人期の感染であっても慢性化する症例が増えている。

感染対策

特別な感染対策は必要なく、医療者は標準予防策で対応する。針刺しなどで患者の血液に曝露した場合は、曝露後予防を検討する必要がある(後述)。

法制度

ウイルス性肝炎として、感染症法の5類感染症に分類され全数把握される。確定患者、死亡者を診断した医師は7日以内に保健所へ届け出ることが義務づけられている。届出義務があるのは急性肝炎であり、慢性感染やキャリアの急性増悪した症例は含まれない。

診断

上記症状や検査異常から急性B型肝炎を疑う場合:HBs抗原陽性、HBe抗原陽性、HBs抗体陰性、HBV-DNA陽性となるが、IgM HBc抗体陽性であれば急性期と診断できる。
無症候でスクリーニングとして行う場合:HBs抗体、HBs抗原をまず評価するのが一般的である。

診断した(疑った)場合の対応

B型肝炎を疑った場合、経過に応じてその他のウイルス性肝炎(A型肝炎、C型肝炎、E型肝炎)、伝染性単核球症、梅毒、アメーバ肝膿瘍、薬剤性肝障害などの鑑別疾患を除外する必要がある。急性肝炎を診断した(もしくは疑った)場合は、その後肝不全へ進展する可能性があるため、早急に肝臓専門医の診療をうけることが推奨される。

治療(応急対応)

成人の急性B型肝炎では、安静・対症療法、核酸アナログ、インターフェロンが治療の選択肢となる。特別な応急対応は必要としないが、早期に肝臓専門医の診療を受けることが推奨される。

医療者が血液曝露をした場合

HBs抗体が(施設毎の)基準値以上存在する場合には、HBVに対する予防は必要ない。
HBs抗体が基準値を満たさない場合には、HBs抗体含有免疫グロブリン投与、HBVワクチンを検討するため、肝臓専門医、感染症専門医への紹介が推奨される。

専門施設に送るべき判断

急性B型肝炎が疑われる症例は早急に専門医の診療を受けることが推奨される。急性肝炎ではなくともHBs抗体がセロコンバージョンしていない症例(HBs抗体陰性、HBs抗原陽性)は、病期に関わらず専門医による診療を受けることが推奨される。

専門施設、相談先

最寄りの肝臓専門医。

役立つサイト、資料

  1. 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会:B型肝炎治療ガイドライン
  2. 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター http://www.kanen.ncgm.go.jp/index.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立国際医療研究センター 上村 悠

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