日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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腎症候性出血熱(hemorrhagic fever with renal syndrome:HFRS)

病原体

原因ウイルスは、ブニヤウイルス目(Bunyavirales)、ハンタウイルス科(Hantaviridae)オルソハンタウイルス属(Orthohantavirus)に分類される旧世界ハンタウイルス(ハンターンウイルス、プーマラウイルス、ソウルウイルスなど)

感染経路

自然宿主であるネズミの排泄物(糞、尿、唾液)の吸入により感染するが、汚染された物品との直接接触や飲食による感染や、感染したネズミに咬まれたり引っかかれたりした例ある。感染した実験用動物による接触感染した例がある。

流行地

アジア(中国、韓国、タイなど)、ヨーロッパ、ロシア、スカンジナビア、米国で流行している。

発生頻度

米国では1993年から2021年時点で850名が報告されている。日本では、1960年代に大阪梅田駅周辺で発生がみられ、1970~80年代に実験目的で購入したラットがウイルスで汚染されていたことにより、22機関で126例のハンタウイルス感染患者が発生していた。現在は施設の改善、飼育販売業者によるウイルスの事前チェックと感染排除策により、実験動物からの感染者は出ていない。感染症法の施行された1998年12月28日以降、国内で患者の発生は確認されていない(2025年3月31日現在)。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は1~35日(通常14~21日)、発熱、頭痛、腹痛、悪寒、吐き気、視力低下、顔面紅潮、結膜炎などの症状ではじまり、その後、低血圧、ショック、血管外漏出、急性腎不全が起こる。

予後

致死率は、原因となるウイルスにより異なり、1%未満(プーマラウイルス)から最大15%(ハンターンウイルス)と言われている。

感染対策

げっ歯類との接触を避ける。ワクチンはない。

法制度

感染症法で四類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

渡航歴、接触歴、臨床像などから本疾患を疑った場合には行政検査を依頼する。血液、尿(急性期)からの分離・同定による病原体の検出またはPCR法による病原体遺伝子の検出。血清による間接蛍光抗体法またはELISA法によるIgM抗体もしくはIgG抗体の検出が行われる。

診断した(疑った)場合の対応

感染症法に基づく届出を直ちに行う。ショックや急性腎不全があり、自施設での対応が困難な場合、可能な限り早期に集中治療管理ができる施設への搬送を進める。

治療(応急対応)

対症療法が治療の中心となる。ショック、および急性腎不全の存在に注意する必要があり、人工透析などを要する場合もあることを念頭におくべきである。

専門施設、相談先

最寄りの保健所、集中治療室のある二次救急医療機関や救命救急センターなどの三次救急医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 米国CDC:腎症候性出血熱
    https://www.cdc.gov/hantavirus/hcp/clinical-overview/hfrs.html
  2. 国立感染症研究所.腎症候性出血熱.2013年6月14日.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/hfrs/010/hfrs-intro.html
  3. 東京都:Ⅱ各論編4 四類感染症(16)腎症候性出血熱(HFRS)、東京都感染症マニュアル2018, 184-185,
    https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/tomin/kansen-manual_2018
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