日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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鳥インフルエンザA(H7N9)感染症(avian influenza A(H7N9)infection)

病原体

鳥の間で流行しているインフルエンザA(H7N9)ウイルスによるヒト感染症。

感染経路

感染経路として以下の2つがある。
①鳥から:ウイルスを保有する鳥の体液や糞、並びにこれらに汚染された環境に触れた手などを介し、ヒトの口、鼻、眼から感染する。また、これらの飛沫や塵埃を経気道的に吸入することで感染する。
②感染したヒトから:稀だがヒト-ヒト感染も起こり得る。
現時点で本ウイルスのヒトへの感染力は弱く、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていない。将来ヒトへの効率良い感染力を獲得する可能性が懸念されている。

流行地域

最初のヒト感染例は、2013年3月に中国で確認された。これまでに中国で冬季に5回流行が見られている。症例のほぼ全ては中国からの報告であり、中国以外からの報告例も中国への渡航歴がある。2018年以降、ヒトの感染例はほとんど無い。現時点(2019年4月現在)では、中国に限定した感染症と言えるが、流行地域については最新の情報を確認する必要がある。

発生頻度

WHOによると2013年-2019年4月末までの約6年間の累積患者数は1,567人、うち死亡数が615人である。大部分の患者で生きた鳥や、鳥によって汚染された環境との接触歴が確認されている。疑わしい患者には、患者発生地域での鳥との接触、生きた鳥を扱う市場(ライブマーケット)訪問、加熱不十分な鶏肉の摂食につき問診する。なお、これまで邦人の感染の報告は無い。

潜伏期間・主要症状

潜伏期間は概ね1-10日(多くは2-5日)である。初発症状はインフルエンザと類似し、高熱と急性呼吸器症状を特徴とする。重症の肺炎を併発しやすい。呼吸不全が進行した例ではびまん性のスリガラス様陰影が両肺に認められ、急速に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)となる。比較的高齢者の報告が多く、慢性心疾患、慢性肺疾患、免疫抑制状態、肥満などは重症化のリスク因子である。

予後

致死率は39%と極めて高い。発症から死亡までの中央値は11日であり、進行性の呼吸不全等による死亡が多い。

感染対策

医療従事者は、標準予防策、飛沫予防策、接触予防策に加え、空気予防策も採用することが勧められる。現時点では本ウイルスが空気感染するという確証は無いが、感染した場合は重症化することに配慮し、特にエアロゾルが発生する手技を行う場合は陰圧個室で実施する。また、医療従事者が十分な感染防御策をとらずに患者と接触した場合には、オセルタミビルやザナミビルを予防投与する。

法制度

「鳥インフルエンザA(H7N9)」は感染症法上の2類感染症に指定されている。医師は、A(H7N9)感染症確定例、無症状病原体保有者、疑似症患者を診断、もしくは感染症死亡者、感染症死亡疑い者の死体を検案した場合は直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

感染症法上の届出基準に基づいて診断する。鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、喀痰、気道吸引液、肺胞洗浄液、剖検材料のいずれかを検査材料とし、分離・同定による病原体の検出もしくは検体から直接のPCR法による病原体遺伝子の検出により確定診断する。検査は通常医療機関では実施できないので、まず保健所に相談する。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に連絡し、指示を受ける。自施設に滞在中は、個室に収容し、上記感染対策を開始する。

治療(応急対応)

発症早期からのノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル)の投与が推奨される。高用量コルチコステロイドは推奨されていない。

専門施設に送るべき判断

本感染症の患者もしくは擬似症患者には、法に基づく入院勧告がなされ、特定、第一種あるいは第二種感染症指定医療機関のいずれかに入院となる。自施設が感染症指定医療機関ではない場合は、保健所の指示により転送させる。

専門施設、相談先

最寄りの保健所に相談する。転送する感染症指定医療機関と事前に情報交換する。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省。鳥インフルエンザA(H7N9)について.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144470.html
  2. 厚生労働省。鳥インフルエンザ(H7N9).https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-12-01.html
  3. 一般社団法人日本感染症学会.鳥インフルエンザA(H7N9)への対応.https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=23#n09
  4. CDC. Information on avian influenza. https://www.cdc.gov/flu/avianflu/index.htm
  5. WHO. Avian influenza A (H7N9) virus. https://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/en/

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器)川名明彦

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