日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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鳥インフルエンザA(H7N9)感染症(avian influenza A(H7N9)infection)

病原体

A型インフルエンザウイルス(H7N9 亜型)

感染経路

感染経路として以下の2つがある。

  1. トリから:ウイルスを保有するトリの体液や糞、並びにこれらに汚染された環境に触れた手などを介し、ヒトの口、鼻、眼から感染する。また、これらの飛沫や塵埃を経気道的に吸入することで感染する。
  2. 感染したヒトから:稀だがヒト-ヒト感染も起こり得る。
    現時点で本ウイルスのヒトへの感染力は弱く、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていない。

流行地域

最初のヒトへの感染例は、2013年3月に中国で確認された。以後、2024年 10月25日時点で、中国本土からの報告例、もしくは中国本土に滞在歴があるか、中国本土から輸入した家きんとの接触歴のある台湾・香港・マカオ・マレーシア・カナダからの報告例がある。流行地域については最新の情報を確認する必要がある。

発生頻度

WHOによると、2013年からこれまでの累積患者数は1,568例が報告されており、うち少なくとも616例(39%)が、死亡している。患者の発生は、中国で冬季にピークを示し、2013年から現在までで5つのピークを認めている。 なお、これまで邦人の感染の報告は無い。中国における第5波までの患者報告数は、第1波は135例、第2波は320例、第3波は223例、第4波は120例、第5波は766例であった。以降のシーズンについては患者数かが減少し、2017~2018年シーズンは3例、2018~2019年シーズンは1例のみであった。最終報告例は2019年3月に発症した1例であり、この患者は甘粛省在住で内モンゴル自治区にて感染したと推定された。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は概ね3~7日(最長10日)である。初発症状はインフルエンザと類似し、発熱、咳嗽、呼吸困難、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が出現する。下気道症状を併発し、重症の肺炎が見られることがある。呼吸不全が進行した例ではびまん性のスリガラス様陰影が両肺に認められ、急速に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の症状を呈する。二次感染、脳症、横紋筋融解症に進展した報告がある。比較的高齢者の報告が多く、慢性心疾患、慢性肺疾患、免疫抑制状態、肥満などは重症化のリスク因子である。

予後

致死率は39%と極めて高い。発症から死亡までの中央値は11日であり、進行性の呼吸不全等による死亡が多い。

感染対策

医療従事者は、標準予防策、飛沫予防策、接触予防策に加え、空気予防策も採用することが勧められる。現時点では本ウイルスが空気感染するという確証は無いが、感染した場合は重症化することに配慮し、特にエアロゾルが発生する手技を行う場合は陰圧個室で実施する。また、医療従事者が十分な感染防御策をとらずに患者と接触した場合には、オセルタミビルやザナミビルを予防投与する。

法制度

「鳥インフルエンザA(H7N9)」は感染症法上の二類感染症に指定されている。医師は、A(H7N9)感染症確定例、無症状病原体保有者、疑似症患者を診断、もしくは感染症死亡者、感染症死亡疑い者の死体を検案した場合は直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

感染症法上の届出基準に基づいて診断する。鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、喀痰、気道吸引液、肺胞洗浄液、剖検材料のいずれかを検査材料とし、分離・同定による病原体の検出もしくは検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出により確定診断する。検査は通常医療機関では実施できないので、まず保健所に相談する。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に連絡し、指示を受ける。自施設に滞在中は、個室に収容し、上記感染対策を開始する。

治療(応急対応)

基本は支持療法と発症早期からのノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル)の投与が推奨される。

専門施設に送るべき判断

本感染症の患者もしくは擬似症患者には、法に基づく入院勧告がなされ、特定、第一種あるいは第二種感染症指定医療機関のいずれかに入院となる。自施設が感染症指定医療機関ではない場合は、保健所の指示により転送させる。

専門施設、相談先

最寄りの保健所に相談する。転送する感染症指定医療機関と事前に情報交換する。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省.鳥インフルエンザA(H7N9)について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144470.html
  2. 一般社団法人日本感染症学会.鳥インフルエンザA(H7N9)への対応.
    https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=23#n09
  3. World Health Organization. Avian influenza A (H7N9) virus
    https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/avian-influenza/avian-influenza-a-(h7n9)-virus
  4. 国立感染症研究所.高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/avian-influenza/030/index.html

(利益相反自己申告:
研究費・助成金など:アボットジャパン合同会社、株式会社IDファーマ)

国立国際医療研究センター国際感染症センター 岩元 典子

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