日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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発疹熱(Murine typhus)

病原体

発疹チフス群Rickettsia typhiによる。

感染経路

R. typhiの保有動物はクマネズミやドブネズミなどのげっ歯類である。これらの動物を吸血するネズミノミが感染を媒介する。ネズミノミは動物を吸血する際にR. typhiを糞中に排出する。このR. typhiが刺咬部位を掻いてできた皮膚の傷口から侵入して感染が起こる。

流行地域

熱帯から亜熱帯地域に広く流行し、保有動物とベクターが分布する沿岸地域の都市部に患者の発生が見られる

発生頻度

渡航者の症例は1988から2014年までに100例以上が報告されているが、渡航者の発熱疾患の中では比較的稀である。自然軽快も含め軽症例がほとんどであるためと考えられる。日本では2003年から2017年までに輸入例が8例、1977~2013年までに国内感染例が6例報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は7-14日である。症状は発熱(98-100%)、頭痛(41-90%)、皮疹(20-80%)、関節痛(40-77%)、咳(15-40%)、その他、下痢、嘔気・嘔吐など非特異的である。発熱、頭痛、皮疹は古典的三徴である。ノミが媒介するので刺し口(eschar)は見られない。検査所見では白血球減少、血小板減少、肝機能異常などが見られるが、特異的な所見ではない。呼吸器症状や胸部画像の異常所見は比較的多い。ARDSは稀であるが起こり得る。

予後

自然軽快も含め軽症例がほとんどである。致死率は適切な抗菌薬投与で1%、投与がなければ4%と報告されている。

感染対策

標準予防策。

法制度

「発疹熱」は感染症法4類に定められた「発疹チフス」と診断された確定患者、無症状病原体保有者、死亡者は直ちに届け出る必要がある。感染症法に定められた届出対象疾患ではない。

診断

急性期の全血、buffy coat、血漿を検体として病原体の標的遺伝子を増幅するPCR法およびPCR増幅産物の遺伝子解析により診断する。急性期・回復期ペア血清のIgG抗体価の有意な上昇による。

診断した(疑った)場合の対応

重症化は稀であるが、疑った場合には検査結果を待たずに直ちに治療を開始する。治療開始前に診断に必要な検体を採取・保存する。

治療(応急対応)

テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択である。

専門施設に送るべき判断

重症化が進み全身管理を要する場合は高度医療機関での治療が必要である。

専門施設、相談先

地方衛生研究所、国立感染症研究所など。

役立つサイト、資料

  1. William L. Nicholson WL, et al. Rickettsial (Spotted & Typhus Fevers) & Related Infections, including Anaplasmosis & Ehrlichiosis. Centers for Disease Control and Prevention. https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/rickettsial-spotted-and-typhus-fevers-and-related-infections-including-anaplasmosis-and-ehrlichiosis#5251
  2. 国立感染症研究所. つつが虫病・日本紅斑熱 2007~2016年. IASR Vol. 38 p.109-2: 2017年6月号

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科 中村(内山)ふくみ

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