日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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ウイルス性脳炎(viral encephalitis)

病原体

ヘルペスウイルス科(Human herpesvirus 6 : HHV-6、Herpes simplex virus : HSV)、日本脳炎、ロタウイルス、エンテロウイルス(A71型、D68型)、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、インフルエンザウイルス(A型、B型)、麻疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルスなどがある。

感染経路

ヘルペスウイルス科;接触感染・飛沫感染。ロタウイルス;接触感染・経口感染。エンテロウイルス;飛沫感染・経口感染。インフルエンザウイルス;飛沫感染。麻疹ウイルス;空気感染。水痘帯状疱疹ウイルス;空気感染。風疹ウイルス;飛沫感染、など原因ウイルスより異なる。

流行地域

ウイルス性脳炎は種々の原因ウイルスによる疾患であるので、全体としては単一の疫学パターンをとらない。特定の原因ウイルスが関係したアウトブレイクが時にみられる。

発生頻度

ウイルス性脳炎は2003年より感染症法全数把握対象疾患となった。急性脳炎として2010年以降毎年200人以上が発症しており、2011年以降、急性脳炎の報告数は年々増加し、2016年~2018年においては毎年700人前後が報告されている(2016年766人、2017年703人、2018年681人)。2007~2018年の12年間に報告された急性脳炎は5,302人で、このうちインフルエンザ脳症が1,450人(27%)であった。病原体としては、インフルエンザ以外のウイルス1,127人(21%)、細菌87人(2%)、ウイルス・細菌以外5人(0.1%)が報告され、不明が2,633人(50%)であった。

潜伏期間・主要症状・検査所見

ウイルス性脳炎は感染急性期に様々な神経症状を呈する。一般的には発熱、意識障害、けいれん、異常行動・言動などがある。また、脳浮腫などによる症状として頭痛や嘔吐があり、新生児・乳児では大泉門膨隆を認めることがある。

予後

予後は原因ウイルスによっても異なってくる。軽症から死亡例までさまざまで、後遺症を残す場合もある。

感染対策

麻疹脳炎;発疹出現前4日から出現後4日は陰圧個室管理。風疹脳炎;発疹出現前7日から出現後14日まで飛沫感染予防。インフルエンザ脳炎は飛沫感染予防策。ヘルペス脳炎・エンテロウイルス脳炎;接触感染・飛沫感染予防策、など原因ウイルス(空気・飛沫・接触感染)によって、標準予防策に加え感染対策を行う。

法制度

「ウイルス性脳炎」は感染症法の五類感染症の「急性脳炎」の届出基準を満たすウイルス性脳炎である。診断した医師は保健所に7日以内に届け出る。
ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎およびリフトバレー熱は別途届出が必要なウイルス性脳炎である。

診断

感染症法に基づく届出基準によると、疾患定義は、「ウイルスなど種々の病原体の感染による脳実質の感染症である。炎症所見が明らかではないが、同様の症状を呈する脳症もここには含まれる。」。臨床的特徴として「多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き、意識障害や痙攣が突然出現し、持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるものを急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差は少ない。」とされる。一般的には髄液検査、脳波、頭部CT/MRI等も施行し、症状や身体所見と併せて総合的に臨床診断を行う。HSVなど一部のウイルスでの核酸増幅検査は保険適用となっており、髄液の多項目的核酸増幅検査も保険適用となっているため病原体診断の一助になる。病原体診断が不能な場合も髄液やペア血清などを保存しておくことで後ろ向きに病原体診断が可能になる可能性がある。診断の参考とする。

診断した(疑った)場合の対応

感染様式は原因ウイルスにより異なる。空気・飛沫・接触感染に応じた隔離による入院管理が必要となる。また、重篤な合併症を認める場合や基礎疾患に免疫不全を有する場合は、専門施設における入院管理を検討する。

治療(応急対応)

ウイルス性脳炎を疑う場合、症状の多くはけいれん重積・群発、意識障害の遷延である。管理の基本はけいれんへの対応と、全身状態の管理(呼吸・循環)である。ウイルス性脳炎の中で、病原体特異的な治療が可能な疾患は単純ヘルペス脳炎である。単純ヘルペス脳炎の頻度はウイルス性脳炎の中でも高いため、疑いの段階でアシクロビルなどによる治療開始が勧められる。

専門施設に送るべき判断

けいれんの重積・群発や意識回復の遷延が認められる場合、呼吸循環状態が不安定な場合、多臓器不全を呈している場合は、集学的治療が行える医療機関での管理が必要となる。

専門施設、相談先

集学的治療が行える高度医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所.急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く).IDWR 2003年第13号.https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/acute-encephalitis/010/encephalitis-intro.html
  2. 厚生労働省.急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-03.html
  3. 国立感染症研究所.急性脳炎 2007~2018年.
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/encephalitis-m/encephalitis-iasrtpc/8941-472t.html
  4. 青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第4版 p554-564

(利益相反自己申告:
講演料:ギリアド・サイエンスズ株式会社
研究費・助成金など:株式会社キアゲン)

国立国際医療研究センター 石金 正裕

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