日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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E型肝炎(Hepatitis E)

病原体

E型肝炎は経口的に感染して急性肝炎を起こすE型肝炎ウイルスによる感染症である。

感染経路

糞便中に排泄されたウイルスが水系を汚染し、汚染された水や、ウイルスを保有したブタやイノシシなどの動物の生肉を摂取することにより感染を発症する。ごく稀に母子感染や輸血関連感染も報告される。

流行地域

年間2,000万人以上の患者が発生し、5万人程度が死亡すると言われる。流行地域は主にアジア、アフリカにおける発展途上国が多いとされ、抗体保有率も極めて高い。しかしヨーロッパ、アメリカや日本などにおいても少なからず集団感染例が報告される。

発生頻度

日本においては年間50例前後の発生報告がある。また、以前は輸入感染と言われていたが、近年では日本国内で渡航歴のない患者も報告されている。

潜伏期間 主要徴候 検査所見

潜伏期間は感染後より15~60日前後と比較的長く、感染してもほとんどのケースでは無症状か軽微な症状で軽快すると言われているが、重症化する例も散見される。
主な症状には発熱、倦怠感、筋肉痛、腹痛、皮疹などであり、採血所見では肝逸脱酵素の上昇、ビリルビン上昇、肝腫大などである。
症状の軽快とともに採血所見も改善を認めるが、いずれも正常までにおよそ4~6週間程度かかる。稀な症状として肝不全、急性膵炎などをきたす例もある。臓器移植後の患者やHIV感染患者においては、6ヶ月以上ウイルス排泄の遷延する慢性E型肝炎も報告されている。

予後

比較的良好であり死亡率は1~4%とされる。自然軽快する例が多いが免疫不全者や妊婦が感染するとその死亡率は高くなり、特に妊婦の場合は劇症肝炎をきたし死亡率が20%以上にものぼると言われており注意が必要である。

感染対策

流行地域では下水などの水系環境の改善が有効であるが、本邦のような非流行域では食物からの感染が最も多い。ウイルスは室温では28日間は生存可能であるが、80℃で2分間以上の加熱をすることで失活させる事が可能である。そのためブタやイノシシなどの生レバーやジビエなどの野生動物の火の通っていない生食を避ける必要がある。糞口感染も少数ながら報告されているため、糞便の曝露を避ける必要がある。

法制度

E型肝炎は四類感染症に指定されているため、診断した医師は全例直ちに管轄の保健所へ届け出をする必要がある。

診断

患者血清を用いたPCRによる遺伝子検査法と、ウイルス特異的IgM、IgGの測定法が行われる。PCRは発症早期でも検出できる上、患者の免疫力に影響されることがないが高価である。
免疫正常者に対しては急性期にはIgMによる検査が推奨されるが、感染後1ヶ月程度経過しないと陽転しないため注意が必要である。IgGは感染後2ヶ月ごろより検出されるようになり既往感染の診断に有効であるが4~5年で陰性化しうる。
近年IgAを用いた診断が可能となっているが可能な施設は限られている。

診断した場合の対処

診断した場合は、基本的にはヒトからヒトへの感染は可能性が極めて低いため標準予防策で対応する。

治療

特異的な治療は存在せず、基本的には安静により症状の軽快を待つとされる。しかし劇症肝炎などをきたした例においては血漿交換なども施行が検討される。免疫不全者において慢性肝炎となった例にはリバビリンやpegIFNγなども使用される。現時点では有効なワクチンは上市されていない。

専門医に送るタイミング

上述の通り、重症化する例の少ない疾患のため、安静で改善することがほとんどであるが、劇症肝炎をきたした例などでは血漿交換が可能な消化器内科および感染症内科のある施設への搬送を推奨される。また、妊婦は死亡リスクが高いため全例専門施設が望ましい。

専門施設

感染症専門医の在籍している施設、可能であれば渡航者感染症を専門としている医師が在籍していることが望ましい。

14.役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省.E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A
    https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/08/h0819-2a.html
  2. 国立感染症研究所.E型肝炎.IDWR 2004年第13号.
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/hepatitis/040/hepatitis-e-intro.html

(利益相反自己申告:
講演料:MSD株式会社)

公立陶生病院 感染症内科 武藤 義和

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