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サイクロスポーラ症(Cyclosporiasis)
病原体
Cyclospora cayetanesisにより引き起こされる感染症で1993年に判明した。サイクロスポーラはクリプトスポリジウムやシストイソスポーラと同じアピコンプレックス門コクシジウム網に属する原虫である。
感染経路
成熟オーシストに汚染された飲料水や生野菜・果物などを経口摂取し感染する。患者から排出されたばかりの便には未熟オーシストが含まれるが、これに感染力はない。
流行地域
アジア、アフリカ、中南米など熱帯、亜熱帯地域では一般的な疾患である。流行地域以外では、海外渡航者が感染した症例や汚染された輸入食物により感染した症例が報告されている。日本で診断された症例も、海外での感染がほとんどである。
発生頻度
海外旅行に伴う感染性胃腸炎患者の1.1%が、サイクロスポーラ症であったとする報告がある。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は平均1週(2日~2週間以上のこともある)であり、水様性下痢、腹痛を主症状とし、食欲不振や嘔吐、体重減少、微熱を伴う。数週~1か月に渡る下痢の原因となりやすく、平均3週間の下痢が持続する。腸管外の症状として、感染後の反応性関節炎やギランバレー症候群を発症した症例の報告もある。また、胆道疾患との関連も示唆されており、HIV/AIDS患者に発症した無石胆嚢炎の症例が報告されている。
予後
小児や高齢者では下痢による脱水のため重症化することがあり留意が必要である。また、HIV/AIDSのような免疫不全者で重症化する。
感染対策
前述のとおり、糞便中に排出されたばかりのオーシストは未熟であり感染性を持たないが、環境中で成熟したオーシストが感染性を有する。オーシストは環境中で数ヶ月生存するため留意が必要である。患者が入院した場合は、標準予防策に加えて、接触感染予防策の実施が必要である。
法制度
感染症法に基づく届出の対象ではない。
診断
サイクロスポーラ症の診断は、検便で特有のオーシストを検出することで可能である。蔗糖遠心沈殿浮遊法で集め検鏡する。また、オーシスト壁が自家蛍光を発するので蛍光顕微鏡検査も有用である。免疫不全者の下痢や、非免疫不全者の長引く下痢などの際に、積極的に検査を行うことが重要である。十分なオーシストの排泄がない場合があるため、疑った場合は、検査を繰り返す必要がある。
診断した(疑った)場合の対応
経路別の予防策としては、接触感染予防策を実施する。また、患者の重症度判定のため、体液量の評価を行い輸液の必要性を判定する。免疫不全者かどうかの評価を行う。
治療(応急対応)
まず、対対症療法として、体液量の評価を行い、脱水と電解質の補正を行う。治療はスルファメトキサゾール・トリメトプリムが推奨される(7~10日間)。HIV感染者が罹患した場合は、治療期間の延長が必要かもしれない。
専門施設に送るべき判断
飲水が困難な症例(特に乳幼児、高齢者)や、急性腎不全や重度な電解質異常の補正を要する症例は専門施設での入院加療を検討する。また、HIV/AIDSなどの免疫不全のある患者の場合、重症化する恐れがあるため専門施設への紹介を検討する。
専門施設、相談先
熱帯病治療薬研究班やエイズ治療拠点病院などへ相談する。
役立つサイト、資料
- Centers for Disease Control and Prevention. Cyclosporiasis.
https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/ - 病原微生物検出情報 IASR.サイクロスポーラ症の本邦第1例.1996;17(10).
- Swaminathan A et al. A global study of pathogens and host risk factors associated with infectious gastrointestinal disease in returned international travellers. J Infect. 2009; 59: 19-27
- Hoge CW et al. Placebo-controlled trial of co-trimoxazole for Cyclospora infections among travellers and foreign residents in Nepal. Lancet. 1995; 345: 691-3
(利益相反自己:申告すべきものなし)
東京都立墨東病院・感染症科 阪本 直也