日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

26
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome,SFTS)

病原体

原因ウイルスは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス[SFTSウイルス(SFTSV)]。2018年のICVTの新規分類では、SFTSVはフェニュイウイルス科(Family Phenuiviridae)バンヤンウイルス属(Genus Banyangvirus)に分類されるフアイヤンシャン・バンヤンウイルス(Huaiyangshan banyangvirus)に科名、属名、ウイルス名が変更された。本稿では、病名およびウイルス名はともにSFTSおよびSFTSVを用いる。

感染経路

マダニ(フタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ)に咬まれてSFTSVに感染するが、近年、SFTSVに感染した伴侶動物(ネコ、イヌ)に咬まれて、または、直接触れて感染した事例が報告されている。ヒトからヒトへの感染事例が報告されている。患者の血液や体液との接触によるヒトからヒトへの感染事例も報告されている。

流行地域

SFTSは中国、朝鮮半島(韓国では患者報告がなされ、北朝鮮では患者は報告されていない)、および、日本で流行している。日本では、九州、四国、中国地方(山陰山陽)、関西、北陸で患者が発生している。

発生頻度

2013年3月以降サーベイランスシステムが構築され、毎年60-90人の患者が西日本から報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は6-14日とされているが、さらに短い場合もある。発熱、頭痛、全身倦怠感、下痢や嘔吐等の消化器症状、意識障害等を発症し、血液検査で血小板減少や白血球減少が、生化学検査によりALT、AST、LDH、CKの上昇を認める。重症例では骨髄検査によりマクロファージによる血球貪食像(血球貪食症候群)の所見が認められる。播種性血管内凝固症候群に基づく血液凝固系の異常も認められる。多臓器不全を伴うことが多く、致死率は極めて高く、10-30%である。壮年・高齢者で症状が重くなる傾向がある。

予後

致死率は10-30%である。予後不良の感染症の1つと考えられる。

感染対策

マダニに咬まれないように注意する。また、SFTS患者の体液に直接触れてSFTSVに感染したり、SFTSVに感染し症状を呈するネコやイヌに咬まれて感染したりする事例が報告されていることから、患者や患畜に触れる場合には接触予防策を講じる。

法制度

SFTSは感染症法において4類感染症に指定されている。SFTSと診断された患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者を診た場合には、直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

SFTS患者の血液中に、剖検例では臓器中にSFTSV、その抗原、遺伝子が存在する。これらのウイルス抗原や遺伝子を検出することにより、また、回復例では急性期および回復期におけるSFTSVに対する抗体価の有意な上昇を確認することにより診断がなされる。比較的早い時期にSFTSVに対するIgM抗体が検出され、その診断における意義は高い。SFTSV遺伝子検査は各都道府県等の衛生研究所で実施されている。抗体検査は限られた機関(例えば国立感染症研究所)でしか実施されていない。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に相談する。感染予防を徹底するとともに、集約的治療が実施可能な医療機関に患者を搬送する。

治療(救急対応)

特異的な治療法はなく、治療は対症療法が基本である。

専門施設に送るべき判断

SFTS患者の症状は通常重く、軽症患者は少ない。また、厳重な感染予防策を実施した上で治療がなされる必要があることから、感染症専門医のいる中核病院等の専門施設に搬送することが推奨される。

専門施設、相談先

国立感染症研究所や感染症専門医のいる専門病院に相談するとよい。

役立つサイト、資料

厚生労働省の関連サイト:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html

 

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所ウイルス一部 西條政幸

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ