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鳥インフルエンザA(H5N1)感染症(avian influenza A(H5N1)infection)
病原体
野鳥の間で流行しているインフルエンザA(H5N1)ウイルスによるヒト感染症。
感染経路
感染経路として以下の3つがある。
- 動物から:ウイルスを保有するトリの体液や糞、並びにこれらに汚染された環境に触れた手などを介し、ヒトの口、鼻、眼から感染する。また、これらの飛沫や塵埃を経気道的に吸入することで感染する。ウシ(乳牛)に感染した場合、ミルクに高濃度のウイルスが排泄されることが報告されている。乳搾りや未殺菌のミルクから感染することが知られている。
- 感染したヒトから:稀だがヒト-ヒト感染も起こり得る。
現時点で本ウイルスのヒトへの感染力は弱く、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていない。しかし本ウイルスは変異しやすいため、ヒトへの効率良い感染力を獲得する可能性が懸念されている。
流行地域・発生頻度
H5N1による最初のヒト感染は1997年に香港で発生し、18人が感染、6人が死亡した。2004年以降、ベトナム、インドネシア、エジプト、カンボジアなどで感染報告が続き、2015年にはエジプトで136件という大規模な感染が発生した。
H5N1によるヒトの感染事例は、2003年から2024年4月までに合計889例報告され、463例が死亡している(致命率約52%)。主な感染経路は、感染した家きんなどの鳥類との接触である。2017年までは報告数が多かったが、2018年以降は減少傾向を示している。2023年以降、カンボジアでの感染が増加し、特定のウイルスクレード(2.3.2.1c)が関与している。また、2024年には米国で牛を介した感染例が報告されたが、ヒトからヒトへの感染は確認されていない(2024年11月25日時点)。
潜伏期間・主要症状
潜伏期間は概ね2~8日。初発症状はインフルエンザと類似し、ほぼ全例で38℃以上の発熱、咳嗽を認め、呼吸困難、咽頭痛・鼻汁、下痢、筋肉痛、頭痛などがみられる。検査では、末梢血白血球数減少、特にリンパ球減少、血小板減少がみられる。多くの例で肺炎を合併し、胸部X線で浸潤影やスリガラス状陰影を認め、急速に悪化し急性呼吸窮迫症候群(ARDS)となる。肺の病理所見はびまん性肺胞障害(DAD)である。
2024年の米国のウシを介した感染は、眼瞼結膜の充血が特徴的な所見である。気道症状は乏しいか、ないことが多い。
予後
既存の報告では致死率は53%と極めて高いが、2024年の米国の流行では死亡例はない(2024年11月25日時点)。発症から平均9~10日(範囲6~30日)目に進行性の呼吸不全により死亡することが多い。
感染対策
医療従事者は、標準予防策、飛沫予防策、接触予防策に加え、空気予防策も採用することが勧められる。現時点では本ウイルスが空気感染するという確証は無いが、感染した場合は重症化することに配慮し、特にエアロゾルが発生する手技を行う場合は陰圧個室で実施する。また、医療従事者が十分な感染防御策をとらずに患者と接触した場合には、オセルタミビルやザナミビルを予防投与する。
法制度
感染症法上の二類感染症に指定されている。医師は、A(H5N1)感染症確定例、無症状病原体保有者、疑似症患者を診断、もしくは感染症死亡者、感染症死亡疑い者の死体を検案した場合は直ちに最寄りの保健所に届け出る。
診断
通常のインフルエンザ迅速検査ではA+で検出される。
「鳥インフルエンザA(H5N1)」の診断は感染症法上の届出基準に基づいて行う。鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、喀痰、気道吸引液、肺胞洗浄液、剖検材料のいずれかを検査材料とし、分離・同定による病原体の検出もしくは検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出により確定診断する。検査は通常医療機関では実施できないので、まず保健所に相談する。
診断した(疑った)場合の対応
最寄りの保健所に連絡し、指示を受ける。自施設に滞在中は、個室に収容し、上記の感染対策を開始する。
治療(応急対応)
発症早期からのノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル)の投与が推奨される。その他、輸液療法、酸素療法などの補助療法、細菌感染合併例への抗菌薬投与等を行う。高用量コルチコステロイドは推奨されていない。
専門施設に送るべき判断
本感染症の患者もしくは疑似症患者には、法に基づく入院勧告がなされ、特定、第一種あるいは第二種感染症指定医療機関のいずれかに入院となる。自施設が感染症指定医療機関でない場合は、保健所の指示により転送させる。
専門施設、相談先
最寄りの保健所に相談する。転送させる感染症指定医療機関と事前に情報交換する。
役立つサイト、資料
- 厚生労働省.感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.6 鳥インフルエンザ(H5N1).
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-07.html - 厚生労働省.鳥インフルエンザについて.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144461.html - CDC. Information on avian influenza.
https://www.cdc.gov/flu/avianflu/index.htm - 国立感染症研究所.高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応.
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/avian-influenza/030/index.html
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
国立国際医療研究センター国際感染症センター 守山 祐樹