日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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狂犬病(rabies)

病原体

原因ウイルスはラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス(Rabies virus,RV)。

感染経路

RVに感染し発病したイヌ(狂犬)は、唾液をはじめとする分泌液にウイルスを排泄する。ヒトはその狂犬に咬まれて感染する。アメリカ大陸ではコウモリに咬まれて狂犬病を発症する事例も報告されている。極めて稀に臓器移植(例えば角膜移植等)を介してヒトからヒトに感染した事例が報告されている。

流行地域

日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドなどの一部の国々を除いて、全世界に分布しており、海外ではほとんどの国で感染する可能性がある。特に東南アジア、インド亜大陸、アフリカや南米諸国では狂犬病の流行が続いている。

発生頻度

多くの患者はアジアとアフリカから報告され、毎年約30,000-50,000人の患者が狂犬病で死亡しているとされる。

潜伏期間・主要症状・検査所見

狂犬に咬まれて通常1-3か月で発病する。潜伏期間が1年に及ぶ場合も報告されている。2-3週間後に、インフルエンザ様症状が現れる。また、咬まれた部位にかゆみ・痛みなどの異常感覚が現れる。さらに交感神経系亢進による涙・唾液分泌増加、瞳孔散大、発汗がおこる。体温・血圧異常、抗利尿ホルモン異常分泌、尿崩症などの下垂体障害による症状も出現する。恐水症、狂空気症が特徴的である。飲水や呼吸が横隔膜や呑下にかかわる筋肉の痙攣を誘発し、水を見ただけでも痙攣をおこすようになる。狂水症が現れて数日で死亡する。

予後

狂犬病を発症した場合にはほぼ全ての患者は死亡する。

感染対策

ヒト-ヒト感染は稀であり、患者に対して標準予防策で対応可能である。ただし患者に咬まれた場合や、患者の唾液が開放創や粘膜に付着した場合は、暴露部分を徹底的に洗浄し、暴露後予防を実施する。
流行地に赴く場合には狂犬病ワクチンをあらかじめ接種しておくことが推奨される。また、狂犬病流行地域でイヌに咬まれた場合には、曝露後狂犬病接種として推奨されている方法に従ってワクチン接種を受ける。WHOは、接種開始日を0として3、7、14、30、90日の6回狂犬病ワクチン接種(曝露後ワクチン接種)を推奨している。

法制度

感染症法では4類感染症に指定されており、狂犬病患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者については直ちに最寄りの保健所に届け出る。

診断

診断にはウイルス学的な検査が欠かせない。脳・皮膚の生検組織中に、RV抗原の存在を病理学的に免疫組織化学法により証明する。皮膚生検や角膜擦過物塗末標本中のウイルス抗原を検出する検査や唾液や脳脊髄液からのウイルス遺伝子増幅検査が実施される。急性期には唾液、脳脊髄液、脳からウイルスを分離することができるが、時間がかかる方法であり迅速診断には不向きである。狂犬病ワクチン未接種かつ抗RV免疫グロブリン未投与例には、特異的IgG抗体が検出され、この場合診断的価値が高い。一方、抗RV免疫グロブリン投与がなされている患者には診断的な価値はない。

診断した(疑った)場合の対応

最寄りの保健所に相談する。

治療(救急対応)

特異的な治療法はなく、対症療法が基本である。発症したら死亡する場合がほとんどである。

専門施設に送るべき判断

狂犬病患者は、適切な感染予防策を講じて治療する必要がある。感染症専門医がいて、かつ、高度治療の実施可能医療機関で治療することが推奨される。

専門施設、相談先

最寄りの保健所、国立感染症研究所や渡航外来のある専門病院に相談するとよい。

役立つサイト、資料

国立感染症研究所.狂犬病特集.IASR 28(3) https://www.niid.go.jp/niid/ja/rabies-m/rabies-iasrtpc/847-iasr-325.html.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所ウイルス一部 西條政幸

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