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クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)
病原体
Cryptosporidium spp.
Cryptosporidium hominisよるヒト-ヒト感染、C. parvumによる人獣共通感染が95%以上を占める。C. meleagridisによる鳥類-ヒト感染も報告されている。
感染経路
哺乳動物との接触および動物の屎尿などで汚染された河川や水道水、汚染された食物中のオーシストを経口摂取することで感染する。感染症発生動向調査(2006~2013年)で報告された100例における感染要因の内訳は、ウシとの接触が32例、海外渡航関連27例、男性同性間性的接触が11例、食品4例、その他2例、不明24例(うち7例で基礎疾患・免疫不全あり)となっている。
流行地域
国内の水系調査で東北、北関東のほか神奈川県、兵庫県、熊本県、沖縄県の水源水域でクリプトスポリジウムオーシストが検出されており源流水系での淡水暴露は感染リスクとなる。輸入感染症としては稀であるが、北米で報告されるクリプトスポリジウム症の約6%にメキシコへの海外渡航歴があるとされる。
発生頻度
感染率は先進国で1~4%、発展途上国で10~30%と推定されている。水系汚染などによる大規模集団感染事例を除くと、本邦では年間10例前後が報告されている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
オーシストの経口摂取後、2週(典型的には5~7日)以内に、下痢で発症する。発熱、腹痛、嘔気、嘔吐、関節痛を伴うこともあるが免疫正常者では2~3週以内に軽快することが多い。小児や免疫不全者では慢性下痢症のほか、消化管外症状として呼吸器症状や胸部異常陰影、胆嚢炎・胆管炎・膵炎を生じうる。
予後
健常者では自然経過で治癒するが、免疫不全者、特にAIDS患者では難治性の重症下痢による脱水で死に至ることもある。消化器症状や関節症状が数年残存する場合もある。
感染対策
患者対応は流水洗浄による手指衛生と接触感染対策を要する。検体は速やかにホルマリンで固定する。患者排泄物により環境が汚染された場合、環境消毒には過酸化水素、高濃度塩素、5~10%アンモニアが有効である。
法制度
感染症法では五類感染症に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられている。
診断
ショ糖浮遊法でオーシストを検出する。3回以上の便検査を行うことが望ましい。抗酸染色で赤く染まる直径約5μmのオーシストが観察される。消化管内視鏡粘膜生検で検出される場合もある。オーシスト特異的免疫蛍光抗体法や便中抗原検出キットは国内未承認である。
診断した(疑った)場合の対応
水系暴露や哺乳動物との接触歴、免疫不全の有無を確認する。テロなどに使用されるおそれのある病原として特定病原体(四種病原体)に指定され施設や保管等の基準の遵守、事故届出と災害時の応急措置が義務付けられているので残検体はオートクレーブで速やかに不活化させることが望ましい。
治療(応急対応)
対症療法として脱水と電解質の補正を行う。重症例ではニタゾキサニドの投与を検討する。本薬剤は国内未承認薬であり、治療用として個人輸入する。薬剤の輸入方法について情報が必要な場合は、熱帯病治療薬研究班ホームページを参照し、国立国際医療研究センター国際感染症センターへ相談する。
専門施設に送るべき判断
飲水で対応できない場合や全身状態不良の場合は入院加療を検討する。AIDS患者を含む免疫抑制者の場合、重症化する恐れがあるので専門施設への紹介を検討する。
専門施設、相談先
熱帯病治療薬研究班 https://www.nettai.org
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所IASR.クリプトスポリジウム症およびジアルジア症 2014年7月現在.
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/cryptosporidium-m/cryptosporidium-iasrtpc/4884-tpc414-j.html - Hlavsa MC et al. Cryptosporidiosis, CDC Yellow Book 2024
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/cryptosporidiosis - 感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kekkaku-kansenshou17/03.html
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京都立墨東病院・感染症科 小坂 篤志