日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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ツツガムシ病(Scrub typhus)

病原体

Orientia tsutsugamushi。標準3血清型(Kato、Karp、Gilliam型)の他、 Kawasaki(Irie)、Kuroki(Hirano)、Shimokoshi型の計6種類の血清型が主に知られている。

感染経路

節足動物媒介感染症である。O. tsutsugamushiを有するダニの一種であるツツガムシ(Leptotrombidum spp.)の幼虫に刺咬されることにより感染する。

流行地域

北海道を除く全国で発生が見られるが、関東、東北、南九州からの報告が多い。
ツツガムシは水系近辺の茂みを好んで生息するので、河川敷でのレジャーや里山での農作業などが曝露リスクとなる。流行時期は主に秋であるが、フトゲツツガムシの一部は越冬が可能なため、年間では春と秋の2峰性の流行が見られる。

発生頻度

日本国内では2001年以降は毎年300~500例の届出報告がある。世界では北日本、西オーストラリア、中央ロシアを頂点とするツツガムシトライアングルを中心にアジアに広く発生している。2001~2021年の輸入症例の報告は韓国6例、台湾3例、ラオス3例、カンボジア3例、アフガニスタン2例、マレーシア2例、インド、フィリピン、ミクロネシア、中国(香港)、アラブ首長国連邦、イタリア、フランスが各1例であった。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は5~14日である。発熱、刺し口(黒色痂皮)、体幹を中心とする皮疹が三徴とされ、それぞれ約90%の患者で認められる。刺し口は径10mm前後で黒色痂皮の周りに発赤を伴うものが典型的である。頭髪内、下着で覆われている部位を含め全身の皮膚観察を行う。皮疹は手掌・足底に出現することは比較的稀である。刺し口周囲の所属リンパ節腫脹を伴うことがある。一般検査では血小板減少、肝逸脱酵素上昇、CRP上昇を認めることが多い。重症化した場合には、脳炎(0.6%)、肺炎(2%)、多臓器不全、播種性血管内凝固を合併する。

予後

適切な抗菌薬治療が行われない場合の致死率は3~60%とされる。適切に治療が開始されれば約90%の症例が3日以内に解熱し軽快する。

感染対策

ツツガムシの吸着を防ぐことが重要であり、野山や河川敷に入る際は長袖長ズボンで肌の露出を避け、忌避剤(DEETなど)を適宜使用する。作業後は着替え、入浴を行うことが推奨される。予防内服は推奨されない。

法制度

感染症法で四類感染症に定められており、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出ることが義務付けられている。

診断

血清診断法として間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法がある。急性期の血清でIgM抗体が80倍以上、またはペア血清で抗体価が4倍以上上昇した場合を陽性とする。媒介するツツガムシの種類によってO. tsutsugamushiの血清型が異なる(表1)。Kato型、Karp型、Gilliam型の血清診断検査は保険適応であるが、急性期に抗体価が上昇しないことも少なくない点、交差反応を示す場合がある点、その他の血清型を診断できない点に注意する。検査の特異性と迅速性から全血、痂皮を用いた遺伝子検査(PCR法、ゲノムシークエンス)を抗体検査と組み合わせて診断する。保険適応外の血清型の血清診断及び遺伝子検査は地方衛生研究所や国立感染症研究所で実施が可能である。鑑別疾患となる日本紅斑熱の検索も行うことが望ましい。

表1:媒介ツツガムシの分布と血清型、DNA型
ツツガムシの種類 主な分布 好発時期 血清型 hNA型
L. akamushi アカツツガムシ 北日本 Kato Kato
L. pallidum フトゲツツガムシ 全国 秋、春 Gilliam
Karp
Japanese Gilliam
Japanese Karp-2
L. scutellare タテツツガムシ 東北中部以南 Irie/ Kawasaki
Hirano/ Kuroki
Irie/ Kawasaki
Hirano/ Kuroki
L. intermedium アラトツツガムシ 全国 Karp Japanese Karp-1
L. palpale ヒゲツツガムシ 北日本・北陸・九州 Shimokoshi Shimokoshi
L. deliense デリーツツガムシ 沖縄 秋、春 Gilliam 台湾系Gilliam

診断した(疑った)場合の対応

早期診断・治療開始が重要である。全血・血清・痂皮などの検体を採取し結果を待たずに抗菌薬投与を開始する。

治療(応急対応)

第一選択薬はテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)である。

専門施設に送るべき判断

多臓器不全、脳髄膜炎や播種性血管内凝固などを発症した重症例は全身管理が必要なため高次医療機関または専門施設への搬送を検討する。

専門施設、相談先

国立感染症研究所ウイルス第一部第五室、全国地方衛生研究所衛生微生物協議会リケッチアリファレンスセンター(最寄りの保健所を通じて相談)

役立つサイト、資料

  1. リケッチア感染症診断マニュアル
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/images/lab-manual/Rickettsia20190628.pdf
  2. 国立感染症研究所.ツツガムシ病,2022年6月現在.IASR Vol. 43 p173-175:2022年8月号
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/tsutsugamushi-m/tsutsugamushi-iasrtpc/11415-510t.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都立 墨東病院・感染症科 小坂 篤志

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