日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

49
日本脳炎(Japanese encephalitis)

病原体

日本脳炎ウイルス(JEV)によって起こる。デングウイルス、ジカウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルスと同様、フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスである。

感染経路

主にコガタアカイエカによって媒介される。JEVの増幅動物はブタでブタと蚊の間で感染環が維持される。

流行地域

東アジア、東南アジア、南アジア、オーストラリア北部(ヨーク半島周辺)。

発生頻度

日本の患者報告数は年間10例以下、中国でも患者は減少しており年間700-1,000人程度であるが、日本脳炎は依然としてアジア地域における最も重要なウイルス性脳炎で、世界的に小児を中心に毎年約3-5万人が発症し、最大で2万人前後が死亡している。JEV保有蚊の刺咬によりヒトに感染するが、不顕性感染率が高く、脳炎以外の症状を含めて発症するのは300-1,000人に一人である。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は6-16日。発熱、頭痛、悪心、嘔吐、痙攣などの初期症状に続き、高熱とともに意識障害、易興奮性、仮面様顔貌、項部硬直、振戦、筋硬直、不随意運動、羞明あるいは麻痺症状が出現し、病状の進行にともない脳浮腫による脳圧亢進、けいれんや呼吸不全をきたす。また、日本脳炎ウイルス感染では脊髄炎や髄膜炎をおこすこともある。後遺症としてはパーキンソン病様症状、痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害などである。臨床検査では、発病早期(1-2日後)の髄液検査では、むしろ多核球優位の細胞増加を示す場合があり、末梢血でも病初期では白血球数の軽度上昇がみられることも多い。頭部MRIでは、視床、黒質、海馬、脳幹がT2強調画像で高信号域を認める。

予後

脳炎を発症すると20-30%が死亡し、30%に後遺症が残る。

感染対策

ヒトーヒト感染はないので患者の隔離は必要なく診療においても標準予防策でよい。
感染予防には日本脳炎ワクチンを接種する。日本脳炎ワクチンは日本では不活化ワクチンであるが、中国の多くの地域では弱毒生ワクチン(SA14-14-2)が接種されており、2回接種した場合、効果は長い。このワクチンは一部の東南アジアでも接種されており、これらの地域からの訪日した脳炎患者の場合、ワクチン接種歴の確認が病因鑑別のために重要である。JEVは、コガタアカイエカによって媒介されるので、蚊に刺されないことが感染対策の一つである。コガタアカイエカは夜間吸血性であり、夜間の蚊対策が重要である。コガタアカイエカは、通常水田、灌漑溝、湿地、河川敷、池沼などの大きなたまり水を産卵場所に選ぶので、田園地帯や農村地域に滞在する場合は夜間の家屋への蚊が侵入しないような対策や蚊取り線香などの防蚊剤の使用も重要である。コガタアカイエカは日本など温帯では7~8月に、熱帯では雨季に多く発生する。JEVに感染したコガタアカイエカは生涯ウイルスを保有し媒介する。

法制度

感染症法上、4類感染症(全数報告対象)であり、医師は確定患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者を直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。

診断

日本脳炎の病態は主として脳炎であるが、脊髄炎、髄膜炎および熱性疾患といった不全型の場合もある。初期症状は発熱、頭痛、悪心、嘔吐、痙攣などで、頭部MRIでは、視床、黒質、海馬、脳幹がT2強調画像で高信号域を認めた場合、日本脳炎が疑われる。

診断した(疑った)場合の対応

髄液および血液、血清を採取し冷蔵保存し、ウイルス遺伝子検査、IgM抗体検査(IgM捕捉ELISA)の実施できる施設に検査を依頼する。ウイルス遺伝子検査が実施できる施設は国立感染症研究所、地方衛生研究所および一部の検査会社である。髄液からのウイルス遺伝子検出は中枢神経症状発症早期でないと検出できないことが多いが、髄液中のIgM抗体検出がウイルスの中枢神経系における増殖を示唆する。IgM抗体検査が実施可能な施設は国立感染症研究所、一部の地方衛生研究所である。ペア血清により赤血球凝集抑制(HI)抗体を測定し有意な上昇を確認する方法もある。

治療(応急対応)

脳炎に対して救命目的に集中的な全身管理を行う。特異的抗ウイルス剤はないので補助療法が予後を左右する。脳浮腫対策(マニトールやその他の脳圧を下げる薬剤)、水・電解質バランスの維持、抗けいれん剤、呼吸管理、錐体外路症状に対する薬剤投与、脳低温療法。

専門施設に送るべき判断

38℃以上の高熱と髄膜刺激症状、神経症状を認める時。

専門施設、相談先

神経内科、感染症科、小児の場合は小児科。

役立つサイト、資料

  1. 宮崎千明、髙崎智彦,日本脳炎ワクチン,ワクチン 基礎から臨床まで,岡部信彦、中山哲夫,初版第1刷,朝倉書店,東京,2018;167-76.
  2. WHO Japanese Encephalitis Vaccines: WHO position paper - February 2015. https://www.who.int/wer/2015/wer9009.pdf?ua=1

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

神奈川県衛生研究所 髙崎智彦

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ